橋姫 あらすじ
薫君の宰相中将時代二十二歳秋から十月までの物語
ここから54帖夢浮橋までの十帖を、俗に宇治十帖と呼ばれ、物語は宇治を舞台に新しい展開になる。
薫は、冷泉院の御前で、ある高僧の阿闍梨から、仏典に詳しく聖のような生活をしている宇治の八宮のことを聞き、ぜひお会いして教えを請いたいと思った。
八宮は、一時、弘徽殿の女御の画策により、帝の後継に祭り上げられる事件に巻き込まれたが、とりわけて後見もなく、その後は俗世が嫌になって、宇治でひっそり暮らしていた。
薫は、宇治へ通って、三年がたったある日、宇治を訪問すると、八宮は寺にこもって修行中であった。薫は、二人の娘、大君と中の君が合奏しているのを聞き、挨拶に伺った。
姫君や女房たちが戸惑っているところへ、弁という老いた女房が現れ、亡くなった柏木のことで、薫の出生に関してお告げしたいことがあり、改めてゆっくりお会いしたいという。
八宮はそれとなく、自分の死後の娘二人の後見をそれとなく薫に頼み、薫は承諾した。
一方、薫は匂い宮に宇治の姫君たちのことを話し、宮は興味をそそられるのだった。
橋姫 章立て
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- 45.1 八の宮の家系と家族
- そのころ、世に数まへられたまはぬ古宮おはしけり。
- 45.2 八の宮と娘たちの生活
- 所につけて、御しつらひなどをかしうしなして、碁、双六、弾棊たぎの盤どもなど取り出でて、心々にすさび暮らしたまふ。
- 45.3 八の宮の仏道精進の生活
- さすがに、広くおもしろき宮の、池、山などのけしきばかり昔に変はらで、いといたう荒れまさるを、つれづれと眺めたまふ。
- 45.4 ある春の日の生活
- 春のうららかなる日影に、池の水鳥どもの、羽うち交はしつつ、おのがじしさへづる声などを、常は、はかなきことに見たまひしかども、つがひ離れぬをうらやましく眺めたまひて、君たちに、御琴ども教へきこえたまふ。いとをかしげに、小さき御ほどに、とりどり掻き鳴らしたまふ物の音ども、あはれにをかしく聞こゆれば、涙を浮けたまひて、
「うち捨ててつがひ去りにし水鳥の
仮のこの世にたちおくれけむ
心尽くしなりや」
と、目おし拭ひたまふ。
- 45.5 八の宮の半生と宇治へ移住
- 父帝にも女御にも、疾く後れきこえたまひて、はかばかしき御後見の、取り立てたるおはせざりければ、才など深くもえ習ひたまはず、まいて、世の中に住みつく御心おきては、いかでかは知りたまはむ。
- 45.6 八の宮、阿闍梨に師事
- いとど、山重なれる御住み処に、尋ね参る人なし。
- 45.7 冷泉院にて阿闍梨と薫語る
- この阿闍梨は、冷泉院にも親しくさぶらひて、御経など教へきこゆる人なりけり。
- 45.8 阿闍梨、八の宮に薫を語る
- 中将の君、なかなか、親王の思ひ澄ましたまへらむ御心ばへを、「対面して、見たてまつらばや」と思ふ心ぞ深くなりぬる。さて阿闍梨の帰り入るにも、
「かならず参りて、もの習ひきこゆべく、まづうちうちにも、けしき賜はりたまへ」
など語らひたまふ。
- 45.9 薫、八の宮と親交を結ぶ
- げに、聞きしよりもあはれに、住まひたまへるさまよりはじめて、いと仮なる草の庵に、思ひなし、ことそぎたり。同じき山里といへど、さる方にて心とまりぬべく、のどやかなるもあるを、いと荒ましき水の音、波の響きに、もの忘れうちし、夜など、心解けて夢をだに見るべきほどもなげに、すごく吹き払ひたり。
- 45.10 晩秋に薫、宇治へ赴く
- 秋の末つ方、四季にあててしたまふ御念仏を、この川面は、網代の波も、このころはいとど耳かしかましく静かならぬを、とて、かの阿闍梨の住む寺の堂に移ろひたまひて、七日のほど行ひたまふ。
- 45.11 宿直人、薫を招き入れる
- しばし聞かまほしきに、忍びたまへど、御けはひしるく聞きつけて、宿直人めく男、なまかたくなしき、出で来たり。
- 45.12 薫、姉妹を垣間見る
- あなたに通ふべかめる透垣すいがいの戸を、すこし押し開けて見たまへば、月をかしきほどに霧りわたれるを眺めて、簾すだれを短く巻き上げて、人びとゐたり。簀子すのこに、いと寒げに、身細く萎えばめる童女一人、同じさまなる大人などゐたり。
- 45.13 薫、大君と御簾を隔てて対面
- かく見えやしぬらむとは思しも寄らで、うちとけたりつることどもを、聞きやしたまひつらむと、いといみじく恥づかし。
- 45.14 老女房の弁が応対
- たとしへなくさし過ぐして、
「あな、かたじけなや。かたはらいたき御座のさまにもはべるかな。御簾の内にこそ。若き人びとは、物のほど知らぬやうにはべるこそ」
など、したたかに言ふ声のさだすぎたるも、かたはらいたく君たちは思す。
- 45.15 老女房の弁の昔語り
- この老い人はうち泣きぬ。
- 45.16 薫、大君と和歌を詠み交して帰京
- 峰の八重雲、思ひやる隔て多く、あはれなるに、なほ、この姫君たちの御心のうちども心苦しう、「何ごとを思し残すらむ。かく、いと奥まりたまへるも、ことわりぞかし」などおぼゆ。
- 45.17 薫、宇治へ手紙を書く
- 老い人の物語、心にかかりて思し出でらる。
- 45.18 薫、匂宮に宇治の姉妹を語る
- 君は、姫君の御返りこと、いとめやすく子めかしきを、をかしく見たまふ。
- 45.19 十月初旬、薫宇治へ赴く
- 十月になりて、五、六日のほどに、宇治へ参うでたまふ。
- 45.20 薫、八の宮の娘たちの後見を承引
- 「このわたりに、おぼえなくて、折々ほのめく箏の琴の音こそ、心得たるにや、と聞く折はべれど、心とどめてなどもあらで、久しうなりにけりや。心にまかせて、おのおの掻きならすべかめるは、川波ばかりや、打ち合はすらむ。論なう、物の用にすばかりの拍子なども、とまらじとなむ、おぼえはべる」とて、「掻き鳴らしたまへ」
と、あなたに聞こえたまへど、「思ひ寄らざりし独り言を、聞きたまひけむだにあるものを、いとかたはならむ」とひき入りつつ、皆聞きたまはず。たびたびそそのかしたまへど、とかく聞こえすさびて、やみたまひぬめれば、いと口惜しうおぼゆ。
- 45.21 薫、弁の君の昔語りの続きを聞く
- さて、暁方の、宮の御行ひしたまふほどに、かの老い人召し出でて、会ひたまへり。
- 45.22 薫、父柏木の最期を聞く
- 「空しうなりたまひし騷ぎに、母にはべりし人は、やがて病づきて、ほども経ず隠れはべりにしかば、いとど思うたまへしづみ、藤衣たち重ね、悲しきことを思うたまへしほどに、年ごろ、よからぬ人の心をつけたりけるが、人をはかりごちて、西の海の果てまで取りもてまかりにしかば、京のことさへ跡絶えて、その人もかしこにて亡せはべりにし後、十年あまりにてなむ、あらぬ世の心地して、まかり上りたりしを、この宮は、父方につけて、童より参り通ふゆゑはべりしかば、今はかう世に交じらふべきさまにもはべらぬを、冷泉院の女御殿の御方などこそは、昔、聞き馴れたてまつりしわたりにて、参り寄るべくはべりしかど、はしたなくおぼえはべりて、えさし出ではべらで、深山隠れの朽木になりにてはべるなり。
- 45.23 薫、形見の手紙を得る
- ささやかにおし巻き合はせたる反故どもの、黴臭きを袋に縫ひ入れたる、取り出でてたてまつる。
- 45.24 薫、父柏木の遺文を読む
- 帰りたまひて、まづこの袋を見たまへば、唐の浮線綾を縫ひて、「上」といふ文字を上に書きたり。
橋姫 登場人物
名称 | よみかた | 役柄と他の呼称 |
薫 | かおる |
呼称---宰相中将・中将・中将の君、源氏の子 |
匂宮 | におうのみや |
呼称---三の宮・宮、今上帝の第三親王 |
八の宮 | はちのみや |
呼称---古宮・宮・親王・俗聖・聖、桐壺帝の第八親王 |
大君 | おおいきみ |
呼称---女君・姫君、八の宮の長女 |
中君 | なかのきみ |
呼称---若君・君、八の宮の二女 |
冷泉院 | れいぜいいん |
呼称---帝・院・院の帝、桐壺帝の第十皇子 |
今上帝 | きんじょうてい |
呼称---内裏、朱雀院の皇子 |
女三の宮 | おんなさんのみや |
呼称---入道の宮、薫の母宮 |
弁の尼君 | べんのあまぎみ |
呼称---弁の君・老い人・古人・古者、柏木の乳母の |
※ このページは、渋谷栄一氏の源氏物語の世界によっています。人物の紹介、見出し区分等すべて、氏のサイトからいただき、そのまま載せました。ただしあらすじは自前。氏の驚くべき労作に感謝します。
公開日2020年9月17日/ 2023年9月2日