源氏物語  東屋 あらすじ 章立て 登場人物

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東屋 あらすじ

薫君の大納言時代二十六歳秋八月から九月までの物語

薫は、亡き大君に似るという浮舟を人形ひとがたとして自分のものにしたいと思うが、世間体を憚ってなかなか実行に移せない。浮舟の母も、弁の尼から薫の意向を伝えられ、うれしく思うものの、あまりの身分違いにためらっている。
国元では、たくさんの求婚者のなかで、左近少将という者が熱心で、浮舟の母もこの男がいいと結婚の準備をするが、左近少将が、浮舟が常陸介の直系の子ではないと知ると、すぐさま気持ちを替えて、常陸の介の厚い後見を望み、実子の娘との婚姻を望み、まだ幼い浮舟の異母妹にあたる娘との縁組を、常陸の介はよろこんで承諾した。
母の中将の君は、あきれてしばらく身を隠そうと思い、浮舟を中の君に預けることを思い立って、二条院にお願いに上がるのだった。中の君は大君に似た面影を持つ浮舟と懐かしそうに相手をした。
帰ってきた匂宮は、浮気な性分を発揮し、浮舟をたまたま新しい女房と思い、さっそく近づいて契ろうとするのだった。それに気がついた乳母が見とがめて、実事なく終わったが、このことが母の中将の君に報告され、母は仰天して、すぐ娘を引き取って、方違いの為に用意していた、小さな東屋に娘を移した。
薫は、弁の尼を使って、どうにかして浮舟に近づこうとしていた。ある時、弁の尼を宇治から、京の東屋にいる浮舟を訪問させ、その時を待って、薫が東屋を訪ね、いきなり浮舟を車に乗せて、宇治へ連れて行ってしまった。

東屋 章立て

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50.1 浮舟の母、娘の良縁を願う
 筑波山を分け見まほしき御心はありながら、端山の繁りまであながちに思ひ入らむも、いと人聞き軽々しう、かたはらいたかるべきほどなれば、思し憚りて、御消息をだにえ伝へさせたまはず。
50.2 継父常陸介と求婚者左近少将
  守も卑しき人にはあらざりけり。
50.3 左近少将、浮舟が継子だと知る
  かくて、この少将、契りしほどを待ちつけで、「同じくは疾く」とせめければ、わが心一つに、かう思ひ急ぐも、いとつつましう、人の心の知りがたさを思ひて、初めより伝へそめける人の来たるに、近う呼び寄せて語らふ。
50.4 左近少将、常陸介の実娘を所望す
  この人、追従あるうたてある人の心にて、これをいと口惜しう、こなたかなたに思ひければ、 「まことに守の娘と思さば、まだ若うなどおはすとも、しか伝へはべらむかし。中にあたるなむ、姫君とて、守、いとかなしうしたまふなる」 と聞こゆ。
50.5 常陸介、左近少将に満足す
  この人は、妹のこの西の御方にあるたよりに、かかる御文なども取り伝へはじめけれど、守には詳しくも見え知られぬ者なりけり。ただ行きに、守の居たりける前に行きて、 「とり申すべきことありて」 など言はす。
50.6 仲人、左近少将を絶賛す
  よろしげなめりと、うれしく思ふ。
50.7 左近少将、浮舟から常陸介の実娘にのり換える
  「このころの御徳などの心もとなからむことは、なのたまひそ。
50.8 浮舟の縁談、破綻す
  北の方は、人知れずいそぎ立ちて、人びとの装束せさせ、しつらひなどよしよししうしたまふ。
50.9 浮舟の母と乳母の嘆き
  こなたに渡りて見るに、いとらうたげにをかしげにて居たまへるに、「さりとも、人には劣りたまはじ」とは思ひ慰む。
50.10 継父常陸介、実娘の結婚の準備
  守は急ぎたちて、 「女房など、こなたにめやすきあまたあなるを、このほどは、あらせたまへ。やがて、帳なども新しく仕立てられためる方を、事にはかになりにためれば、取り渡し、とかく改むまじ」 とて、西の方に来て、立ち居、とかくしつらひ騒ぐ。
50.11 浮舟の母、京の中君に手紙を贈る
  母君、御方の乳母、いとあさましく思ふ。
50.12 母、浮舟を匂宮邸に連れ出す
  守、少将の扱ひを、いかばかりめでたきことをせむと思ふに、そのきらきらしかるべきことも知らぬ心には、ただ、あららかなる東絹どもを、押しまろがして投げ出でつ。食ひ物も、所狭きまでなむ運び出でてののしりける。
50.13 浮舟の母、匂宮と中君夫妻を垣間見る
  宮渡りたまふ。
50.14 浮舟の母、左近少将を垣間見て失望
   宮、日たけて起きたまひて、 「后の宮、例の、悩ましくしたまへば、参るべし」 とて、御装束などしたまひておはす。ゆかしうおぼえて覗けば、うるはしくひきつくろひたまへる、はた、似るものなく気高く愛敬づききよらにて、若君をえ見捨てたまはで遊びおはす。御粥、強飯など参りてぞ、こなたより出でたまふ。
50.15 浮舟の母、中君と談話す
  女君の御前に出で来て、いみじくめでたてまつれば、田舎びたる、と思して笑ひたまふ。
50.16 浮舟の母、娘の不運を訴える
  こまかにはあらねど、人も聞きけりと思ふに、少将の思ひあなづりけるさまなどほのめかして、 「命はべらむ限りは、何か、朝夕の慰めぐさにて見過ぐしつべし。うち捨てはべりなむのちは、思はずなるさまに散りぼひはべらむが悲しさに、尼になして、深き山にやし据ゑて、さる方に世の中を思ひ絶えてはべらましなどなむ、思うたまへわびては、思ひ寄りはべる」 など言ふ。
50.17 浮舟の母、薫を見て感嘆す
  容貌も心ざまも、え憎むまじうらうたげなり。
50.18 中君、薫に浮舟を勧める
  例の、物語いとなつかしげに聞こえたまふ。
50.19 浮舟の母、娘に貴人の婿を願う
  「さらば、その客人に、かかる心の願ひ年経ぬるを、うちつけになど、浅う思ひなすまじう、のたまはせ知らせたまひて、はしたなげなるまじうはこそ。いとうひうひしうならひにてはべる身は、何ごともをこがましきまでなむ」 と、語らひきこえおきて出でたまひぬるに、この母君、 「いとめでたく、思ふやうなるさまかな」 とめでて、乳母ゆくりかに思ひよりて、たびたび言ひしことを、あるまじきことに言ひしかど、この御ありさまを見るには、「天の川を渡りても、かかる彦星の光をこそ待ちつけさせめ。わが娘は、なのめならむ人に見せむは惜しげなるさまを、夷めきたる人をのみ見ならひて、少将をかしこきものに思ひける」を、悔しきまで思ひなりにけり。
50.20 浮舟の母、中君に娘を託す
  君は、忍びてのたまひつることを、ほのめかしのたまふ。
50.21 匂宮、二条院に帰邸
  車引き出づるほどの、すこし明うなりぬるに、宮、内裏よりまかでたまふ。
50.22 匂宮、浮舟に言い寄る
  夕つ方、宮こなたに渡らせたまへれば、女君は、御ゆするのほどなりけり。
50.23 浮舟の乳母、困惑、右近、中君に急報
  乳母、人げの例ならぬを、あやしと思ひて、あなたなる屏風を押し開けて来たり。
50.24 宮中から使者が来て、浮舟、危機を脱出
  「上達部あまた参りたまふ日にて、遊び戯れては、例も、かかる時は遅くも渡りたまへば、皆うちとけてやすみたまふぞかし。
50.25 乳母、浮舟を慰める
  恐ろしき夢の覚めたる心地して、汗におし浸して臥したまへり。 
50.26 匂宮、宮中へ出向く
  宮は、急ぎて出でたまふなり。
50.27 中君、浮舟を慰める
 この君は、まことに心地も悪しくなりにたれど、乳母、 「いとかたはらいたし。事しもあり顔に思すらむを。ただおほどかにて見えたてまつりたまへ。右近の君などには、事のありさま、初めより語りはべらむ」 と、せめてそそのかしたてて、こなたの障子のもとにて、 「右近の君にもの聞こえさせむ」 と言へば、立ちて出でたれば、 「いとあやしくはべりつることの名残に、身も熱うなりたまひて、まめやかに苦しげに見えさせたまふを、いとほしく見はべる。御前にて慰めきこえさせたまへ、とてなむ。過ちもおはせぬ身を、いとつつましげに思ほしわびためるも、いささかにても世を知りたまへる人こそあれ、いかでかはと、ことわりに、いとほしく見たてまつる」 とて、引き起こして参らせたてまつる。
50.28 浮舟と中君、物語絵を見ながら語らう
  絵など取り出でさせて、右近に詞読ませて見たまふに、向ひてもの恥ぢもえしあへたまはず、心に入れて見たまへる灯火影、さらにここと見ゆる所なく、こまかにをかしげなり。
50.29 乳母の急報に浮舟の母、動転す
  乳母、車請ひて、常陸殿へ往ぬ。北の方にかうかうと言へば、胸つぶれ騷ぎて、「人もけしからぬさまに言ひ思ふらむ。正身もいかが思すべき。
50.30 浮舟の母、娘を三条の隠れ家に移す
  かやうの方違へ所と思ひて、小さき家まうけたりけり。
50.31 母、左近少将と和歌を贈答す
  少将の扱ひを、守は、またなきものに思ひ急ぎて、「もろ心に、さま悪しく、営まず」と怨ずるなりけり。
50.32 母、薫のことを思う
  「故宮の御こと聞きたるなめり」と思ふに、「いとどいかで人と等しく」とのみ思ひ扱はる。
50.33 浮舟の三条のわび住まい-
  旅の宿りは、つれづれにて、庭の草もいぶせき心地するに、いやしき東声したる者どもばかりのみ出で入り、慰めに見るべき前栽の花もなし。
50.34 薫、宇治の御堂を見に出かける
  かの大将殿は、例の、秋深くなりゆくころ、ならひにしことなれば、寝覚め寝覚めにもの忘れせず、あはれにのみおぼえたまひければ、「宇治の御堂造り果てつ」と聞きたまふに、みづからおはしましたり。
50.35 薫、弁の尼に依頼して出る
  「などてか。ともかくも、人の聞き伝へばこそあらめ、愛宕の聖だに、時に従ひては出でずやはありける。
50.36 弁の尼、三条の隠れ家を訪ねる
  のたまひしまだつとめて、睦ましく思す下臈侍一人、顔知らぬ牛飼つくり出でて遣はす。
50.37 薫、三条の隠れ家の浮舟と逢う
  宵うち過ぐるほどに、「宇治より人参れり」とて、門忍びやかにうちたたく。
50.38 薫と浮舟、宇治へ出発
  ほどもなう明けぬ心地するに、鶏などは鳴かで、大路近き所に、おぼとほどれたる声して、いかにとか聞きも知らぬ名のりをして、うち群れて行くなどぞ聞こゆる。
50.39 薫と浮舟の宇治への道行き
  「近きほどにや」と思へば、宇治へおはするなりけり。
50.40 宇治に到着、薫、京に手紙を書く
  おはし着きて、 「あはれ、亡き魂や宿りて見たまふらむ。誰によりて、かくすずろに惑ひありくものにもあらなくに」 と思ひ続けたまひて、降りてはすこし心しらひて、立ち去りたまへり。女は、母君の思ひたまはむことなど、いと嘆かしけれど、艶なるさまに、心深くあはれに語らひたまふに、思ひ慰めて降りぬ。
50.41 薫、浮舟の今後を思案す
   うちとけたる御ありさま、今すこしをかしくて入りおはしたるも恥づかしけれど、もて隠すべくもあらで居たまへり。
50.42 薫と浮舟、琴を調べて語らう
  ここにありける琴、箏の琴召し出でて、「かかることはた、ましてえせじかし」と、口惜しければ、一人調べて、 「宮亡せたまひてのち、ここにてかかるものに、いと久しう手触れざりつかし」 と、めづらしく我ながらおぼえて、いとなつかしくまさぐりつつ眺めたまふに、月さし出でぬ。

登場人物

 
名称よみかた役柄と他の呼称
かおる 呼称---右大将・大将殿・大将・殿・君、源氏の子
匂宮におうのみや 呼称---兵部卿宮・宮、今上帝の第三親王
今上帝きんじょうてい 呼称---帝・内裏・当代、朱雀院の第一親王
明石中宮あかしのちゅうぐう 呼称---大宮・后の宮、源氏の娘
夕霧ゆうぎり 呼称---右の大殿・大殿、源氏の長男
紅梅大納言こうばいのだいなごん 呼称---按察使大納言、致仕大臣の二男
女三の宮おんなさんのみや 呼称---母宮・入道の宮、薫の母
女二の宮おんなにのみや 呼称---姫宮・宮・帝の御かしづき女・当代の御かしづき女、今上帝の第二内親王
中君なかのきみ 呼称---宮の上・宮の北の方・上・女君・君、八の宮の二女
浮舟うきふね 呼称---姫君・御方・西の御方・君、八の宮の三女
弁尼君べんのあまぎみ 呼称---弁の尼君・尼君・弁
左近少将さこんのしょうしょう 呼称---左近の少将殿・少将殿・少将の君・少将・朝臣、浮舟への求婚者
中将の君ちゅうじょうのきみ 呼称---常陸殿・母北の方・母君・母上・北の方、浮舟の母
常陸介ひたちのすけ 呼称---常陸守・守・守の主・父主、浮舟の継父
浮舟の乳母うきふねのめのと 呼称---御方の乳母・乳母

※ このページは、渋谷栄一氏の源氏物語の世界によっています。人物の紹介、見出し区分等すべて、氏のサイトからいただき、そのまま載せました。ただしあらすじは自前。氏の驚くべき労作に感謝します。

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公開日2021年1月18日/ 改定2023年10月23日