源氏物語  関屋 注釈

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筑波嶺の山を吹き越す風も、浮きたる心地して 筑波峯の山を吹き越す風に託すのは、頼りない気がして。「甲斐が峯を峯越し山越し吹く風を人にもがもや言つてやらむ」(古今巻二十、東歌)常陸からではあまりに遠いので、途中を不安に思って控えたことをいう。
類広く見ゆ 一族縁者が多いと見える。
関屋 関所の建物。
さとくづれ出でたる旅姿どもの さっと現れ出た旅姿のものたち(源氏一行)。
色々の襖のつきづきしき縫物、括り染めのさまも、さるかたにをかしう見ゆ 「襖」狩衣に裏のついたもの。位階により染色が異なる。狩襖(かりあお)。「つきづきしき縫物」よく似合った刺繍の模様。「くくり染めのさまも」絞り染め。旅行着は派手なものが好まれた。「さるかたに」こうした旅行着としては。
右衛門佐えもんのすけ 衛門府の次官。従五位上相当。
今日の御関迎へは、え思ひ捨てたまはじ 今日の関までのお出迎えは、おろそかにはお思いになりますまい。偶然の再会をわざとこう言った。
おほぞうにてかひなし 一通りのご伝言だけなので、何のかいもない。
行くと来とせき止めがたき涙をや絶えぬ清水と人は見るらむ 逢坂の関を越えて往くものと来るものと、行き違って別れてゆく、それを悲しんでとめどなく流す私の涙を関の清水と人は見ることであろうか(新潮) / 逢坂の関を越えて行くものと来るものと、行き違って逢うことができず、それを悲しんで流すわたし涙を、絶えず流れる関の清水と人は見ることであろうか。(新潮日本古典集成 新潮社)/ 行くときも帰るときも、抑えきれないわたしの涙を、人は絶えず流れる関の清水と思うでしょう。(玉上
かうぶりなど得しまで 従五位下に叙せられること。叙爵といい、立身の最初の関門であった。
わくらばに行き逢ふ道を頼みしもなほかひなしや潮ならぬ海 逢瀬の関での偶然の再会に期待を寄せていましたが、やはり無駄でした、なにしろ潮ならぬ海ですから。「潮ならぬ海」琵琶湖のこと(新潮) / 逢坂の関での偶然の再会に期待を寄せていましたが、やはり無駄でした、何しろ潮ならぬ海ですから。(新潮日本古典集成 新潮社)/ たまたま行き会いそれも近江路で頼もしく思いましたのに、お目にかかれないとは、やはりかいがありませんね、塩でない海ですから。(玉上)
逢坂の関やいかなる関なればしげき嘆きの仲を分くらむ 逢坂の関は一体どんな関だと言うので、こう深い嘆きを味わわなければならないのでしょう(新潮)  / 逢坂の関は一体どんな関だというので、こう深い嘆きを味わわねばならぬのでしょう。(新潮日本古典集成)/ 逢坂の関はどんな関なので、生い茂った木々の間をかき分けて行くのでしょうか。わたしたちはどうしてこうも深い嘆きを重ねるのでしょう。(玉上)
あはれもつらさも、忘れぬふしと思し置かれたる人なれば 恋しさも恨めしさも、忘れがたい一件だったと、心にとどめていらっしゃる人だったので。
のたまひ動かしけり 「言ひ動かす」の尊敬語。恋文をやって心をひこうとすること。
あいなのさかしらやなどぞ /つまらぬおせっかいだ、などと人は申しているようです。世間の評判を伝える語り手の言葉。/ つからぬおせっかいだ、などと申すそうで。

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公開日2018年9月4日