私の万葉集 巻第十一

旋頭歌せどうか

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2357

朝戸出あさとでの 君が足結あゆひを らす露原つゆはら 早く起き でつつわれも すそ濡らさな

大人の恋の理想の姿ですね。こういう情景を見ると、つい浮気を想像しがちであるが、古代は妻問い婚であるから、通常の夫婦の情愛を詠んだものと思う。
2357
朝戸出―朝早く戸を開けて出てゆくこと。
足結―活動に便利なように、袴の膝下の辺りをくくる紐。
裳の裾濡らさな―ナは意志を表す。
2364

玉垂たまだれの 小簾こすのすきまに り通ひね たらちねの 母がはさば 風とまうさむ

解説の訳、「玉垂の小簾の隙間から、入り通って来てください。お母さんに聞かれたら、風よと答えましょう」若い娘の歌。可愛いですね。ひょっとすると民間歌謡からできたものかも、旋頭歌ですし。
2364
玉垂―玉垂は、穴を穿った数多くの玉に緒を通して垂らしたすだれ。雅語として用いられ、同格的に小簾を修飾する。

ただ心緒おもひを述ぶる

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2407

百積ももさかの 船かくる 八占やうらさし 母は問うとも その名はらじ

お母さんが、色々な占いをして、探りを入れて尋ねてきても、あなたの名前は絶対に言いません。若い娘の歌。
2407
百積の船隠れ入る―八占のウラに「浦」の意でかけた同音の序。百積は大きな船あるいは多くの船の意か。
八占さし―いろいろな占いをしての意か。
2527

たれそこの がやどに来呼きよぶ たらちねの 母にころはえ 物思ものおもわれ

お母さんに叱られて落ち込んでいる私に、折悪しくも、家まで来て、声をかけるのは誰なの。若い娘の歌。
2527
誰そこの我がやどに来呼ぶ―誰ソは係り部だが、倒置して結びの来呼ブの下に置くことも可能。あいにくの時に訪れた男の無神経さ―タイミングの悪さに立腹して言った。
母にころはえ―コロフは叱責すること。
2545

かれと 問わば答へむ すべをなみ 君が使ひを 帰しつるかも

もしお母さんに見つかって、あの人は誰なのと聞かれたらどうしよう、それが心配で、あなたの使いを帰してしまった。これも若い娘の歌。
2545
誰そ彼―誰ですかあそこにいる人は。第三者が作者(女)の恋人を見とがめていう言葉。ここでは母親などが不審に思って作者に尋ねる言葉。
この巻も、次から次へと相聞歌が続く。そのなかから選ぶのは、まったくひとそれぞれの好みの問題。ここでは若い娘の詠んだ歌が揃っていて、世間にすれていない思いっきりのいい心の動きが可愛らしい。
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巻第十一終了。5首採集―全490首。

更新2007年8月9日