初音 あらすじ
光る源氏の太政大臣時代三十六歳の新春正月の物語
源氏 36才 太政大臣
年が改まり、朝の空の気配、晴れ渡ったうららかな空模様に、邸の玉砂利も美しく、若葉も芽生え始め、磨き上げた邸うちは、実に晴れやかに新年を迎えた。紫の上の春の御殿は次のように評される。年末に贈った衣裳が晴れの日にどのように栄えある様になっているか、見る楽しみもあった。六条院だけでなく、正月過ぎて二条院にもわたって、末摘花やの空蝉の処にも行った。
春の御殿の御前、とりわきて、梅の香も御簾のうちの匂ひに吹きまがひ、生ける仏の御国とおぼゆ。
正月の一日は源氏はそれぞれの邸にいる女たちに、挨拶に回るのだった。夏の町には花散里が住み、次のように描写される。
夏の御住まひを見たまへば、時ならぬけにや、いと静かに見えて、わざと好ましきこともなくて、あてやかに住みたるけはひ見えわたる。
美しい玉鬘の処にも寄って、冬の町明石の君の住まいに行き、この日はここに泊まり、夜明け前に紫の上の処に帰るのだった。
暮れ方になるほどに、明石の御方に渡りたまふ。近き渡殿の戸押し開くるより、御簾のうちの追風、なまめかしく吹き匂はして、ものよりことに気高く思さる。正身は見えず。いづらと見まはしたまふに、硯のあたりにぎははしく、草子どもなど取り散らしたるなど取りつつ見たまふ。
六条院の正月二日は、殿上人や親王たちの来客が多くにぎわう。男踏歌が内裏から朱雀院を経て、六条院へ廻ってきて、明け方まで賑わうのだった。源氏の絶頂期の正月の模様である。
初音 章立て
※ 見出しをクリックすると本文に飛びます
- 23.1 春の御殿の紫の上の周辺
- 年立ちかへる朝の空のけしき、名残なく曇らぬうららかげさには、数ならぬ垣根のうちだに、雪間の草若やかに色づきはじめ、いつしかとけしきだつ霞に、木の芽もうちけぶり、おのづから人の心ものびらかにぞ見ゆるかし。まして、いとど玉を敷ける御前の、庭よりはじめ見所多く、磨きましたまへる御方々のありさま、 まねびたてむも言の葉足るまじくなむ。
- 23.2 明石姫君、実母と和歌を贈答
- 姫君の御方に渡りたまへれば、童女わらわ、下仕しもづかへなど、御前おまえの山の小松引き遊ぶ。若き人びとの心地ども、おきどころなく見ゆ。北の御殿より、わざとがましくし集めたる髯籠ひげごども、破籠わりごなどたてまつれたまへり。えならぬ五葉の枝に移る鴬も、思ふ心あらむかし。
- 23.3 夏の御殿の花散里を訪問
- 夏の御住まひを見たまへば、時ならぬけにや、いと静かに見えて、わざと好ましきこともなくて、あてやかに住みたるけはひ見えわたる。
- 23.4 続いて玉鬘を訪問
- まだいたくも住み馴れたまはぬほどよりは、けはひをかしくしなして、をかしげなる童女の姿なまめかしく、人影あまたして、御しつらひ、あるべき限りなれど、こまやかなる御調度は、いとしも調へたまはぬを、さる方にものきよげに住みなしたまへり。
- 23.5 冬の御殿の明石御方に泊まる
- 暮れ方になるほどに、明石の御方に渡りたまふ。近き渡殿の戸押し開くるより、御簾のうちの追風、なまめかしく吹き匂はして、ものよりことに気高く思さる。正身は見えず。いづらと見まはしたまふに、硯のあたりにぎははしく、草子どもなど取り散らしたるなど取りつつ見たまふ。
- 23.6 六条院の正月二日の臨時客
- 今日は、臨時客のことに紛らはしてぞ、面隠したまふ。上達部、親王たちなど、例の、残りなく参りたまへり。御遊びありて、引出物、禄など、二なし。そこら集ひたまへるが、我も劣らじともてなしたまへるなかにも、すこしなずらひなるだにも見えたまはぬものかな。
- 23.7 二条東院の末摘花を訪問
- かうののしる馬車の音を、もの隔てて聞きたまふ御方々は、蓮の中の世界に、まだ開けざらむ心地もかくやと、心やましげなり。
- 23.8 続いて空蝉を訪問
- 空蝉の尼衣にも、さしのぞきたまへり。
- 23.9 男踏歌、六条院に回り来る
- 今年は男踏歌とうかあり。
- 23.10 源氏、踏歌の後宴を計画す
- 夜明け果てぬれば、御方々帰りわたりたまひぬ。大臣の君、すこし御殿籠もりて、日高く起きたまへり。