行幸 あらすじ
(源氏 36才~37才)
光る源氏の太政大臣時代三十六歳十二月から三十七歳二月までの物語
その年の師走、冷泉帝の大原野への行幸あった。源氏も乞われたが、玉鬘も大勢の見物人とともに見学した。源氏は物忌みのため参列を辞退した。
玉鬘に求愛している兵部卿の宮も髯黒の右大将も参列していた。父の内大臣もいた。玉鬘は宮中の上達部たちが一堂に会した行列を見て、帝にまさる美し人はいないと思った。
源氏が勧めている宮仕いは、帝の寵を受けことなく、一般職として側に仕えてお目通りできるなら、その方がよいとも思うのだった。
一方、玉鬘の裳着の儀が源氏によって計画されていた。この際、やはり内大臣に玉鬘が娘だと告げてが腰結いを内大臣のやってもらおうと源氏は計画したが、事情をよく知らない内大臣はいったんは断った。
一方、高齢な大宮は病がちになり、夕霧は頻繁に見舞って世話を焼いていたが、源氏も見舞いに上がったことを聞き、無沙汰をしていた内大臣は慌てて母を見舞うことになり、三条邸で面談することになり、玉鬘の裳着の儀の腰結い役を内大臣は引き受けるのを承知した。
裳着の儀でな、内外から多くの祝いの品が寄せられた。
近江の君は、玉鬘の厚遇を聞いて、嫉妬するのだった。内大臣邸では、近江の君は、笑い者、厄介者扱いされていた。
行幸 章立て
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- 29.1 大原野行幸
- かく思しいたらぬことなく、いかでよからむことはと、思し扱ひたまへど、 この音無の滝こそ、 うたていとほしく、南の上の御推し量りごとにかなひて、軽々しかるべき御名なれ。かの大臣、何ごとにつけても、きはぎはしう、すこしもかたはなるさまのことを、思し忍ばずなどものしたまふ御心ざまを、「さて思ひ隈なく、けざやかなる御もてなしなどのあらむにつけては、をこがましうもや」など、思し返さふ。
- 29.2 玉鬘、行幸を見物
- 西の対の姫君も立ち出でたまへり。
- 29.3 行幸、大原野に到着
- かうて、野におはしまし着きて、御輿とどめ、上達部の平張にもの参り、御装束ども、直衣、狩のよそひなどに改めたまふほどに、六条院より、御酒、御くだものなどたてまつらせたまへり。
- 29.4 源氏、玉鬘に宮仕えを勧める
- またの日、大臣、西の対に、
「昨日、主上は見たてまつりたまひきや。かのことは、思しなびきぬらむや」
と聞こえたまへり。
- 29.5 玉鬘、裳着の準備
- 「とてもかうても、まづ御裳着もぎのことをこそは」と思して、その御まうけの御調度の、こまかなるきよらども加へさせたまひ、何くれの儀式を、御心にはいとも思ほさぬことをだに、おのづからよだけくいかめしくなるを、まして、「内の大臣にも、やがてこのついでにや知らせたてまつりてまし」と思し寄れば、いとめでたくなむ。「年返りて、二月に」と思す。
- 29.6 源氏、三条宮を訪問
- 今はまして、忍びやかにふるまひたまへど、行幸に劣らずよそほしく、いよいよ光をのみ添へたまふ御容貌などの、この世に見えぬ心地して、めづらしう見たてまつりたまふには、いとど御心地の悩ましさも、取り捨てらるる心地して、起きゐたまへり。
- 29.7 源氏と大宮との対話
- 御物語ども、昔今のとり集め聞こえたまふついでに、
「内の大臣は、日隔てず参りたまふことしげからむを、かかるついでに対面のあらば、いかにうれしからむ。
- 29.8 源氏、大宮に玉鬘を語る
- † 「さるは、かの知りたまふべき人をなむ、思ひまがふることはべりて、不意に尋ね取りてはべるを、その折は、さるひがわざとも明かしはべらずありしかば、あながちにことの心を尋ね返さふこともはべらで、たださるものの種の少なきを、かことにても、何かはと思うたまへ許して、をさをさ睦びも見はべらずして、年月はべりつるを、いかでか聞こしめしけむ、内裏に仰せらるるやうなむある。
- 29.9 大宮、内大臣を招く
- 内の大殿、かく三条の宮に太政大臣渡りおはしまいたるよし、聞きたまひて、
「いかに寂しげにて、いつかしき御さまを待ちうけきこえたまふらむ。
- 29.10 内大臣、三条宮邸に参上
- 君達いとあまた引きつれて入りたまふさま、ものものしう頼もしげなり。
- 29.11 源氏、内大臣と対面
- 大臣も、めづらしき御対面に、昔のこと思し出でられて、よそよそにてこそ、はかなきことにつけて、挑ましき御心も添ふべかめれ、さし向かひきこえたまひては、かたみにいとあはれなることの数々思し出でつつ、例の、隔てなく、昔今のことども、年ごろの御物語に、日暮れゆく。
- 29.12 源氏、内大臣、三条宮邸を辞去
- 夜いたう更けて、おのおのあかれたまふ。
- 29.13 大臣、源氏の意向に従う
- 大臣、うちつけにいといぶかしう、心もとなうおぼえたまへど、
「ふと、しか受けとり、親がらむも便なからむ。尋ね得たまへらむ初めを思ふに、定めて心きよう見放ちたまはじ。
- 29.14 二月十六日、玉鬘の裳着の儀
- かくてその日になりて、三条の宮より、忍びやかに御使あり。
- 29.15 玉鬘の裳着への祝儀の品々
- 中宮より、白き御裳、唐衣、御装束、御髪上の具など、いと二なくて、例の、壺どもに、唐の薫物、心ことに香り深くてたてまつりたまへり。
- 29.16 内大臣、腰結に役を勤める
- 内大臣うちのおとどは、さしも急がれたまふまじき御心なれど、めづらかに聞きたまうし後は、いつしかと御心にかかりたれば、疾く参りたまへり。
- 29.17 祝賀者、多数参上
- 親王たち、次々、人びと残るなく集ひたまへり。
- 29.18 近江の君、玉鬘を羨む
- 世の人聞きに、「しばしこのこと出ださじ」と、切に籠めたまへど、口さがなきものは世の人なりけり。
- 29.19 内大臣、近江の君を愚弄
- 大臣、この望みを聞きたまひて、いとはなやかにうち笑ひたまひて、女御の御方に参りたまへるついでに、
「いづら、この、近江の君。こなたに」
と召せば、
「を」
と、いとけざやかに聞こえて、出で来たり。