真木柱 あらすじ
(源氏 37才~38才)
光る源氏の太政大臣時代三十七歳冬十月から三十八歳十一月までの物語
玉鬘は、誰もが意外に思うが、無骨な髭黒の手中に帰した。意に染まぬ結婚に玉鬘は打ち沈み、髭黒は大喜びだった。
髭黒の北の方は、ますます乱心がちになり、玉鬘の処へ出かけようとする髭黒に後ろから灰を浴びせたりするのだった。
父の式部卿の宮は、娘を自邸に引きとることにする。髭黒と北の方の間には十二三歳位の姫君と十才と八才の男子があ
り、姫君は北の方が連れて行くことになった。姫君は父が大好きで、邸を離れるとき、歌を詠み、真木柱の隙に挟み込んだ。
今はとて宿かれぬとも馴れ来つる 真木の柱はわれを忘るな
この巻の漢名はこの歌による。
年が明けて、玉鬘は宮中へ出仕する。帝は人妻になって出仕した玉鬘の美しさに打たれ、恨みごとを言うのだった。
玉鬘は一度出仕して、その後は自邸で尚侍の仕事をこなすのだった。
一方、源氏は玉鬘への好き心を抑えきれず、相変わらず文を出すのだった。
真木柱 章立て
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- 31.1 鬚黒、玉鬘を得る
- †「内裏に聞こし召さむこともかしこし。しばし人にあまねく漏らさじ」と諌めきこえたまへど、さしもえつつみあへたまはず。
- 31.2 内大臣、源氏に感謝
-
- 父大臣は、
「なかなかめやすかめり。ことにこまかなる後見なき人の、 なまほの好いたる宮仕へに出で立ちて.、苦しげにやあらむとぞ、うしろめたかりし。心ざしはありながら、女御かくてものしたまふをおきて、いかがもてなさまし」
など、忍びてのたまひけり。
- 31.3 玉鬘、宮仕えと結婚の新生活
- 霜月になりぬ。神事などしげく、内侍所ないどころにもこと多かるころにて、女官ども、内侍ども参りつつ、今めかしう人騒がしきに、大将殿、昼もいと隠ろへたるさまにもてなして、籠もりおはするを、いと心づきなく、尚侍の君かむのきみは思したり。
- 31.4 源氏、玉鬘と和歌を詠み交す
- 殿も、いとほしう人びとも思ひ疑ひける筋を、心きよくあらはしたまひて、「わが心ながら、うちつけにねぢけたることは好まずかし」と、昔よりのことも思し出でて、紫の上にも、
「思し疑ひたりしよ」
など聞こえたまふ。
- 31.5 鬚黒の北の方の嘆き
- 内裏へ参りたまはむことを、やすからぬことに大将思せど、そのついでにや、まかでさせたてまつらむの御心つきたまひて、ただあからさまのほどを許しきこえたまふ。
- 31.6 鬚黒、北の方を慰める
- † †住まひなどの、あやしうしどけなく、もののきよらもなくやつして、いと埋れいたくもてなしたまへるを、玉を磨ける目移しに、心もとまらねど、年ごろの心ざしひき替ふるものならねば、心には、いとあはれと思ひきこえたまふ。
- 31.7 鬚黒、北の方を慰める
- 御召人だちて、仕うまつり馴れたる木工もくの君、中将の御許などいふ人びとだに、ほどにつけつつ、「やすからずつらし」と思ひきこえたるを、北の方は、うつし心ものしたまふほどにて、いとなつかしううち泣きてゐたまへり。
- 31.8 鬚黒、玉鬘のもとへ出かけようとする
- 暮れぬれば、心も空に浮きたちて、いかで出でなむと思ほすに、雪かきたれて降る。かかる空にふり出でむも、人目いとほしう、この御けしきも、憎げにふすべ恨みなどしたまはば、なかなかことつけて、 われも迎ひ火つくりてあるべきを、いとおいらかに、つれなうもてなしたまへるさまの、いと心苦しければ、いかにせむ、と思ひ乱れつつ、格子などもさながら、端近ううち眺めてゐたまへり。
- 31.9 北の方、鬚黒に香炉の灰を浴びせ掛ける
- 御火取り召して、いよいよ焚きしめさせたてまつりたまふ。みづからは、萎えたる御衣ども、うちとけたる御姿、いとど細う、か弱げなり。
- 31.10 鬚黒、玉鬘に手紙だけを贈る
- 夜一夜、打たれ引かれ、泣きまどひ明かしたまひて、すこしうち休みたまへるほどに、かしこへ御文たてまつれたまふ。
- 31.11 翌日、鬚黒、玉鬘を訪う
- 暮るれば、例の、急ぎ出でたまふ。御装束のことなども、めやすくしなしたまはず、世にあやしう、うちあはぬさまにのみむつかりたまふを、あざやかなる御直衣なども、え取りあへたまはで、いと見苦し。
- 31.12 式部卿宮、北の方を迎えに来る
-
修法ずほうなどし騒げど、御もののけこちたくおこりてののしるを聞きたまへば、「あるまじき疵もつき、恥ぢがましきこと、かならずありなむ」と、恐ろしうて寄りつきたまはず。
- 31.13 母君、子供たちを諭す
- 君たちは、何心もなくてありきたまふを、母君、皆呼び据ゑたまひて、
「みづからは、かく心憂き宿世、今は見果てつれば、この世に跡とむべきにもあらず、ともかくもさすらへなむ。生ひ先遠うて、さすがに、散りぼひたまはむありさまどもの、悲しうもあべいかな。
- 31.14 姫君、柱の隙間に和歌を残す
- 日も暮れ、雪降りぬべき空のけしきも、心細う見ゆる夕べなり。
- 31.15 式部卿宮家の悲憤慷慨
- 宮には待ち取り、いみじう思したり。母北の方、泣き騷ぎたまひて、
「太政大臣を、めでたきよすがと思ひきこえたまへれど、いかばかりの昔の仇敵にかおはしけむとこそ思ほゆれ。
- 31.16 鬚黒、式部卿宮家を訪問
- 宮に恨み聞こえむとて、参うでたまふままに、まづ、殿におはしたれば、木工の君など出で来て、ありしさま語りきこゆ。姫君の御ありさま聞きたまひて、男々しく念じたまへど、ほろほろとこぼるる御けしき、いとあはれなり。
- 31.17 鬚黒、男子二人を連れ帰る
- 小君達をば車に乗せて、語らひおはす。
- 31.18 玉鬘、新年になって参内
- かかることどもの騷ぎに、尚侍かむの君の御けしき、いよいよ晴れ間なきを、大将は、いとほしと思ひあつかひきこえて、
「この参りたまはむとありしことも、絶え切れて、妨げきこえつるを、内裏にも、なめく心あるさまに聞こしめし、人びとも思すところあらむ。
- 31.19 男踏歌、貴顕の邸を回る
- 踏歌は、方々に里人参り、さまことに、けににぎははしき見物なれば、誰も誰もきよらを尽くし、袖口の重なり、こちたくめでたくととのへたまふ。春宮の女御も、いとはなやかにもてなしたまひて、宮は、まだ若くおはしませど、すべていと今めかし。
- 31.20 玉鬘の宮中生活
- 宿直所とのいどころにゐたまひて、日一日、聞こえ暮らしたまふことは、
「夜さり、まかでさせたてまつりてむ。かかるついでにと、思し移るらむ御宮仕へなむ、やすからぬ」
とのみ、同じことを責めきこえたまへど、御返りなし。さぶらふ人びとぞ、
「大臣の、『心あわたたしきほどならで、まれまれの御参りなれば、御心ゆかせたまふばかり。許されありてを、まかでさせたまへ』と、聞こえさせたまひしかば、今宵は、あまりすがすがしうや」
と聞こえたるを、いとつらしと思ひて、
「さばかり聞こえしものを、さも心にかなはぬ世かな」
とうち嘆きてゐたまへり。
- 31.21 帝、玉鬘のもとを訪う
- 月の明かきに、御容貌はいふよしなくきよらにて、ただ、かの大臣の御けはひに違ふところなくおはします。「
- 31.22 玉鬘、帝と和歌を詠み交す
- †大将は、かく渡らせたまへるを聞きたまひて、いとど静心なければ、急ぎまどはしたまふ。
- 31.23 玉鬘、鬚黒邸に退出
- やがて今宵、かの殿にと思しまうけたるを、かねては許されあるまじきにより、漏らしきこえたまはで、
「にはかにいと乱り風邪の悩ましきを、心やすき所にうち休みはべらむほど、よそよそにてはいとおぼつかなくはべらむを」
と、おいらかに申しないたまひて、やがて渡したてまつりたまふ。
- 31.24 二月、源氏、玉鬘へ手紙贈る
- 二月にもなりぬ。大殿は、
「さても、つれなきわざなりや。いとかう際々しうとしも思はで、たゆめられたるねたさを」、人悪ろく、すべて御心にかからぬ折なく、恋しう思ひ出でられたまふ。
- 31.25 源氏、玉鬘の返書を読む
- 引き広げて、玉水のこぼるるやうに思さるるを、「人も見ば、うたてあるべし」と、つれなくもてなしたまへど、胸に満つ心地して、かの昔、尚侍の君を朱雀院の后の切に取り籠めたまひし折など思し出づれど、さしあたりたることなればにや、これは世づかずぞあはれなりける。
- 31.26 三月、源氏、玉鬘を思う-
- 三月になりて、六条殿の御前の、藤、山吹のおもしろき夕ばえを見たまふにつけても、まづ見るかひありてゐたまへりし御さまのみ思し出でらるれば、春の御前をうち捨てて、こなたに渡りて御覧ず。
- 31.27 北の方、病状進む
- かの、もとの北の方は、月日隔たるままに、あさましと、ものを思ひ沈み、いよいよ呆け疾れてものしたまふ。
- 31.28 十一月に玉鬘、男子を出産
- その年の十一月に、いとをかしき稚児をさへ抱き出でたまへれば、大将も、思ふやうにめでたしと、もてかしづきたまふこと、限りなし。そのほどのありさま、言はずとも思ひやりつべきことぞかし。
- 31.29 近江の君、活発に振る舞う
- まことや、かの内の大殿の御女の、尚侍のぞみし君も、さるものの癖なれば、色めかしう、さまよふ心さへ添ひて、もてわづらひたまふ。
真木柱 登場人物
- 光る源氏 ひかるげんじ 呼称---太政大臣・大臣・六条殿・大殿・大臣の君・殿、三十七歳から三十八歳
- 夕霧 ゆうぎり 呼称---宰相中将、光る源氏の長男
- 玉鬘 たまかづら 呼称---尚侍の君・女君・君、内大臣の娘
- 内大臣 ないだいじん 呼称---内大臣・父大臣・二条の大臣・大臣
- 柏木 かしわぎ 呼称---頭中将
- 紫の上 むらさきのうえ 呼称---大殿の北の方・春の上
- 弘徽殿女御 こきでんのにょうご 呼称---女御
- 冷泉帝 れいぜいてい 呼称---帝・主上・内裏
- 秋好中宮 あきこのむちゅうぐう 呼称---中宮
- 鬚黒大将 ひげくろだいしょう 呼称---大将・大将殿・大将の君・父君・殿・男
- 蛍兵部卿宮 ほたるひょうぶきょうのみや 呼称---兵部卿宮・宮
- 承香殿女御 しょうきょうでんのにょうご 呼称---春宮の女御
- 鬚黒の北の方 ひげくろのきたのかた 呼称---もとの北の方・母君・女君
- 真木柱 まきばしら 呼称---姫君
- 式部卿宮 しきぶきょうのみや 呼称---父親王・父宮・宮、真木柱の母方の祖父
- 式部卿宮の北の方 しきぶきょうのみやのきたのかた 呼称---母北の方
- 木工の君 もくのきみ 呼称---木工の君
- 中将の御許 ちゅうじょうのおもと 呼称---中将の御許
- 近江君 おうみのきみ 呼称---君
※ このページは、渋谷栄一氏の源氏物語の世界によっています。人物の紹介、見出し区分等すべて、氏のサイトからいただき、そのまま載せました。ただしあらすじは自前。氏の驚くべき労作に感謝します。
公開日2019年10月13日/ 改定2023年5月12日