幻 あらすじ
光る源氏の准太上天皇時代五十二歳春から十二月までの物語
紫の上亡き後、源氏は籠って拝賀の人々にも合おうとせず、悲しみの日々を過ごしている。わずかに蛍の宮に対面したほかは、女房たちと故人の思い出にふけるのだった。何ごとにつけ、源氏は悲しみに沈み、法事を行い、自身の出家の心の準備をするのであった。
大空をかよふ幻夢にだに
見えこぬ魂の行方たづねよ
この巻の巻名となった源氏の歌である。玄宗皇帝が、神仙の術を使う方士に、楊貴妃の魂魄を求めさせたことを踏まえた歌。「幻」は自在に天空を巡る方士のこと。
12月末、
仏名会に、源氏は人々の前に姿を現し、導師をもねぎらった。
晦の日、年の終わりとともに、わが一生も終わったことを源氏は悟るのであった。そして、読者も、来年は源氏は出家するであろうと思い、この巻は終わるとともに、光源氏の物語が終わる。この後、「雲隠」の巻名だけがあり、文章のない巻があり、源氏が死んだことが暗示される。
幻 章立て
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- 41.1 紫の上のいない春を迎える
- 春の光を見たまふにつけても、いとどくれ惑ひたるやうにのみ、御心ひとつは、悲しさの改まるべくもあらぬに、外には、例のやうに人びと参りたまひなどすれど、御心地悩ましきさまにもてなしたまひて、御簾の内にのみおはします。
- 41.2 雪の朝帰りの思い出
- つれづれなるままに、いにしへの物語などしたまふ折々もあり。
- 41.3 中納言の君らを相手に述懐
- 例の、紛らはしには、御手水召して行ひしたまふ。
- 41.4 源氏、面会謝絶して独居
- 疎き人にはさらに見えたまはず。
- 41.5 春深まりゆく寂しさ
- 春深くなりゆくままに、御前のありさま、いにしへに変らぬを、めでたまふ方にはあらねど、静心なく、何ごとにつけても胸いたう思さるれば、おほかたこの世の外のやうに、鳥の音も聞こえざらむ山の末ゆかしうのみ、いとどなりまさりたまふ。
- 41.6 女三の宮の方に出かける
- いとつれづれなれば、入道の宮の御方に渡りたまふに、若宮も人に抱かれておはしまして、こなたの若君と走り遊び、花惜しみたまふ心ばへども深からず、いといはけなし。
- 41.7 明石の御方に立ち寄る
- 夕暮の霞たどたどしく、をかしきほどなれば、やがて明石の御方に渡りたまへり。
- 41.8 明石の御方に悲しみを語る
- 「さまで思ひのどめむ心深さこそ、浅きに劣りぬべけれ」
- 41.9 花散里や中将の君らと和歌を詠み交わす
- 夏の御方より、御衣更の御装束たてまつりたまふとて、
「夏衣裁ち替へてける今日ばかり
古き思ひもすすみやはせぬ」
御返し、
「羽衣の薄きに変はる今日よりは
空蝉の世ぞいとど悲しき」
祭の日、いとつれづれにて、「今日は物見るとて、人びと心地よげならむかし」とて、御社のありさまなど思しやる。
- 41.10 五月雨の夜、夕霧来訪
- 五月雨は、いとど眺めくらしたまふより他のことなく、さうざうしきに、十余日の月はなやかにさし出でたる雲間のめづらしきに、大将の君御前にさぶらひたまふ。
- 41.11 ほととぎすの鳴き声に故人を偲ぶ
- 「昨日今日と思ひたまふるほどに、御果てもやうやう近うなりはべりにけり。
- 41.12 蛍の飛ぶ姿に故人を偲ぶ
- いと暑きころ、涼しき方にて眺めたまふに、池の蓮の盛りなるを見たまふに、「いかに多かる」など、まづ思し出でらるるに、ほれぼれしくて、つくづくとおはするほどに、日も暮れにけり。ひぐらしの声はなやかなるに、御前の撫子の夕映えを、一人のみ見たまふは、げにぞかひなかりける。
- 41.13 紫の上の一周忌法要
- 七月七日も、例に変りたること多く、御遊びなどもしたまはで、つれづれに眺め暮らしたまひて、星逢ひ見る人もなし。
- 41.14 源氏、出家を決意
- 神無月には、おほかたも時雨がちなるころ、いとど眺めたまひて、夕暮の空のけしきも、えもいはぬ心細さに、「降りしかど」と独りごちおはす。雲居を渡る雁の翼も、うらやましくまぼられたまふ。
- 41.15 源氏、手紙を焼く
- 落ちとまりてかたはなるべき人の御文ども、破れば惜し、と思されけるにや、すこしづつ残したまへりけるを、もののついでに御覧じつけて、破らせたまひなどするに、かの須磨のころほひ、所々よりたてまつれたまひけるもある中に、かの御手なるは、ことに結ひ合はせてぞありける。
- 41.16 源氏、出家の準備
- 「御仏名も、今年ばかりにこそは」と思せばにや、常よりもことに、錫杖の声々などあはれに思さる。
幻 登場人物
名称 | よみかた | 役柄と他の呼称 |
光る源氏 | ひかるげんじ | 呼称----ナシ、五十一歳
|
蛍兵部卿宮 | ほたるひょうぶきょうのみや |
呼称---兵部卿宮・宮、源氏の弟 |
女三の宮 | おんなさんのみや | 呼称---入道の宮・宮、源氏の正妻 |
匂宮 | におうのみや | 呼称---三の宮・宮、今上帝の第三親王 |
明石の中宮 | あかしのちゅうぐう | 呼称---后の宮、今上帝の后 |
明石の御方 | あかしのおんかた | 呼称----明石・女、源氏の妻 |
花散里 | はなちるさと | 呼称---夏の御方、源氏の妻 |
夕霧 | ゆうぎり | 呼称---大将の君・大将・大将殿、源氏の長男 |
※ このページは、渋谷栄一氏の源氏物語の世界によっています。人物の紹介、見出し区分等すべて、氏のサイトからいただき、そのまま載せました。ただしあらすじは自前。氏の驚くべき労作に感謝します。
公開日2020年8月3日/改定 2023年8月7日