源氏物語  浮舟 あらすじ 章立て 登場人物

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浮舟 あらすじ

薫君の大納言時代二十六歳十二月から二十七歳の春雨の降り続く三月頃までの物語

薫は、浮舟を宇治の邸に一時的に隠したのだが、いずれ京へ迎えようと思っていた。匂宮は垣間見た浮舟を忘れることができず、宇治から邸に来た女房間の文で察知して、宇治に女がいることを突き止めて、お忍びで宇治へ行った。
薫を装って近づき、契りを結んだ。匂宮はすっかり浮舟に夢中になり、浮舟も匂宮に惹かれて、京へはなかなか帰りたがらないのだった。その後も、忘れられない匂宮はこっそり宇治へ行き、右近には姿を見せるが他の女房たちには分からないように、逢引を重ね、向こう岸の仮屋にまで行って、二人で逢瀬を過ごした。
宮も浮舟を京へ連れて来るべき住まいの準備をした。薫は、浮舟を京につれてくる段取りをしていたが、匂宮の行いをそれとなく気づいて、宮が入れないように、宇治の警備を厳重にするよう、申し付けた。一時は浮舟を宮に譲ろうかとまで思ったが、浮気な匂宮が手を付けた女を、姉の一宮の侍女にしているのを思い、浮舟をそんな扱いにさせたくないと思うのだった。
匂宮と薫と、二人の男に愛された浮舟は、どちらか一方に思いを寄せることができず、身の置き所がなくなり、死を決意するのだった。
浮舟辞世の句

— 母に —
のちにまたあひ見むことを思はなむ
この世の夢に心まどはで
— 寺からきた読経の巻数の文に書きつけ、ものの枝にいつけて—
鐘のおとの絶ゆるひびきにをそえて
わが世尽きぬと君に伝へよ

浮舟 章立て

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51.1 匂宮、浮舟を追想し、中君を恨む
   宮、なほ、かのほのかなりし夕べを思し忘るる世なし。
51.2 薫、浮舟を宇治に放置
  かの人は、たとしへなくのどかに思しおきてて、「待ち遠なりと思ふらむ」と、心苦しうのみ思ひやりたまひながら、所狭き身のほどを、さるべきついでなくて、かやしく通ひたまふべき道ならねば、神のいさむるよりもわりなし。
51.3 薫と中君の仲
   すこしいとまなきやうにもなりたまひにたれど、宮の御方には、なほたゆみなく心寄せ仕うまつりたまふこと同じやうなり。
51.4 正月、宇治から京の中君への文
  睦月の朔日ついたち過ぎたるころ渡りたまひて、若君の年まさりたまへるを、もて遊びうつくしみたまふ昼つ方、小さき童、緑の薄様なる包み文の大きやかなるに、小さき鬚籠ひげごを小松につけたる、また、すくすくしき立文たてぶみとり添へて、奥なく走り参る。
51.5 匂宮、手紙の主を浮舟と察知す
   ことにらうらうじきふしも見えねど、おぼえなき、御目立てて、この立文を見たまへば、げに女の手にて、 「年改まりて、何ごとかさぶらふ。御私にも、いかにたのしき御よろこび多くはべらむ。
51.6 匂宮、大内記から薫と浮舟の関係を知る
  わが御方におはしまして、 「あやしうもあるかな。宇治に大将の通ひたまふことは、年ごろ絶えずと聞くなかにも、忍びて夜泊りたまふ時もあり、と人の言ひしを、いとあまりなる人の形見とて、さるまじき所に旅寝したまふらむこと、と思ひつるは、かやうの人隠し置きたまへるなるべし」 と思し得ることもありて、御書のことにつけて使ひたまふ大内記だいないきなる人の、かの殿に親しきたよりあるを思し出でて、御前に召す。
51.7 匂宮、薫の噂を聞き知り喜ぶ
   「いとうれしくも聞きつるかな」と思ほして、 「たしかにその人とは、言はずや。かしこにもとよりある尼ぞ、訪らひたまふと聞きし」 「尼は、廊になむ住みはべるなる。この人は、今建てられたるになむ、きたなげなき女房などもあまたして、口惜しからぬけはひにてゐてはべる」 と聞こゆ。
51.8 匂宮、宇治行きを大内記に相談
  ただそのことを、このころは思ししみたり。
51.9 匂宮、馬で宇治へ赴く
   御供に、昔もかしこの案内知れりし者、二、三人、この内記、さては御乳母子の蔵人よりかうぶり得たる若き人、睦ましき限りを選りたまひて、「大将、今日明日よにおはせじ」など、内記によく案内聞きたまひて、出で立ちたまふにつけても、いにしへを思し出づ。
51.10 匂宮、浮舟とその女房らを覗き見る
  やをら昇りて、格子の隙あるを見つけて寄りたまふに、伊予簾はさらさらと鳴るもつつまし。
51.11 匂宮、薫の声をまねて浮舟の寝所に忍び込む
  「何ばかりの親族にかはあらむ。
51.12 翌朝、匂宮、京へ帰らず居座る
  夜は、ただ明けに明く。御供の人来て声づくる。
51.13 右近、匂宮と浮舟の密事を隠蔽す
  右近出でて、このおとなふ人に、 「かくなむのたまはするを、なほ、いとかたはならむ、とを申させたまへ。あさましうめづらかなる御ありさまは、さ思しめすとも、かかる御供人どもの御心にこそあらめ。
51.14 右近、浮舟の母の使者の迎えを断わる
  日高くなれば、格子など上げて、右近ぞ近くて仕うまつりける。
51.15 匂宮と浮舟、一日仲睦まじく過ごす
    例は暮らしがたくのみ、霞める山際を眺めわびたまふに、暮れ行くはわびしくのみ思し焦らるる人に惹かれたてまつりて、いとはかなう暮れぬ。紛るることなくのどけき春の日に、見れども見れども飽かず、そのことぞとおぼゆる隈なく、愛敬づきなつかしくをかしげなり。
51.16 翌朝、匂宮、京へ帰る
  夜さり、京へ遣はしつる大夫参りて、右近に会ひたり。
51.17 匂宮、二条院に帰邸し、中君を責める
  † 二条の院におはしまし着きて、女君のいと心憂かりし御もの隠しもつらければ、心やすき方に大殿籠もりぬるに、寝られたまはず、いと寂しきに、もの思ひまされば、心弱く対に渡りたまひぬ。
51.18 明石中宮からと薫の見舞い
  内裏より大宮の御文あるに、驚きたまひて、なほ心解けぬ御けしきにて、あなたに渡りたまひぬ。
51.19 二月上旬、薫、宇治へ行く
  月もたちぬ。
51.20 薫と浮舟、それぞれの思い
  「造らする所、やうやうよろしうしなしてけり。
51.21 薫と浮舟、宇治橋の和歌を詠み交す
  山の方は霞隔てて、寒き洲崎に立てる鵲の姿も、所からはいとをかしう見ゆるに、宇治橋のはるばると見わたさるるに、柴積み舟の所々に行きちがひたるなど、他にて目馴れぬことどものみとり集めたる所なれば、見たまふたびごとに、なほそのかみのことのただ今の心地して、いとかからぬ人を見交はしたらむだに、めづらしき仲のあはれ多かるべきほどなり。
51.22 二月十日、宮中の詩会催される
   如月の十日のほどに、内裏に文作らせたまふとて、この宮も大将も参りあひたまへり。
51.23 匂宮、雪の山道の宇治へ行く
  かの人の御けしきにも、いとど驚かれたまひければ、あさましうたばかりておはしましたり。
51.24 匂宮と浮舟、橘の小島の和歌を詠み交す
  夜のほどにて立ち帰りたまはむも、なかなかなべければ、ここの人目もいとつつましさに、時方にたばからせたまひて、「川より遠方なる人の家に率ておはせむ」と構へたりければ、先立てて遣はしたりける、夜更くるほどに参れり。
51.25 匂宮、浮舟に心奪われる
  日さし出でて、軒の垂氷の光りあひたるに、人の御容貌もまさる心地す。
51.26 匂宮、浮舟と一日を過ごす
  人目も絶えて、心やすく語らひ暮らしたまふ。
51.27 匂宮、京へ帰り立つ
  御物忌、二日とたばかりたまへれば、心のどかなるままに、かたみにあはれとのみ、深く思しまさる。
51.28 匂宮、二条院に帰邸後、病に臥す
  かやうの帰さは、なほ二条にぞおはします。
51.29 春雨の続く頃、匂宮から手紙が届く
  雨降り止まで、日ごろ多くなるころ、いとど山路思し絶えて、わりなく思されければ、「親のかふこは所狭きものにこそ」と思すもかたじけなし。
51.30 その同じ頃、薫からも手紙が届く
  これかれと見るもいとうたてあれば、なほ言多かりつるを見つつ、臥したまへれば、侍従、右近、見合はせて、 「なほ、移りにけり」 など、言はぬやうにて言ふ。
51.31 匂宮、薫の浮舟を新築邸に移すことを知る
  女宮に物語など聞こえたまひてのついでに、 †† 「なめしともや思さむと、つつましながら、さすがに年経ぬる人のはべるを、あやしき所に捨て置きて、いみじくもの思ふなるが心苦しさに、近う呼び寄せて、と思ひはべる。
51.32 浮舟の母、京から宇治に来る
  † 大将殿は、卯月の十日となむ定めたまへりける。
51.33 浮舟の母、弁の尼君と語る
  暮れて月いと明かし。有明の空を思ひ出づる、「涙のいと止めがたきは、いとけしからぬ心かな」と思ふ。
51.34 浮舟、母と尼の話から、入水を思う
  「あな、むくつけや。
51.35 浮舟の母、帰京す
  悩ましげにて痩せたまへるを、乳母にも言ひて、 「さるべき御祈りなどせさせたまへ。
51.36 薫と匂宮の使者同士出くわす
  殿の御文は今日もあり。悩ましと聞こえたりしを、「いかが」と、訪らひたまへり。
51.37 薫、匂宮が女からの文を読んでいるのを見る
  かどかどしき者にて、供にある童を、 「この男に、さりげなくて目つけよ。左衛門大夫の家にや入る」 と見せければ、 「宮に参りて、式部少輔になむ、御文は取らせはべりつる」 と言ふ。
51.38 薫、随身から匂宮と浮舟の関係を知らされる
  夜更けて、皆出でたまひぬ。
51.39 薫、帰邸の道中、思い乱れる
  道すがら、「なほ、いと恐ろしく、隈なくおはする宮なりや。
51.40 薫、宇治へ随身を遣わす
  「我、すさまじく思ひなりて、捨て置きたらば、かならず、かの宮、呼び取りたまひてむ。
51.41 右近と侍従、右近の姉の悲話を語る
  まほならねど、ほのめかしたまへるけしきを、かしこにはいとど思ひ添ふ。
51.42 浮舟、右近の姉の悲話から死を願う
  「いさや。
51.43 内舎人、薫の伝言を右近に伝える
   殿よりは、かのありし返り事をだにのたまはで、日ごろ経ぬ。
51.44 浮舟、死を決意して、文を処分す
  君は、「げに、ただ今いと悪しくなりぬべき身なめり」と思すに、宮よりは、 「いかに、いかに」 と、苔の乱るるわりなさをのたまふ、いとわづらはしくてなむ。
51.45 三月二十日過ぎ、浮舟、匂宮を思い泣く
  二十日あまりにもなりぬ。かの家主、二十八日に下るべし。
51.46 匂宮、宇治へ行く
  宮、「かくのみ、なほ受け引くけしきもなくて、返り事さへ絶え絶えになるは、かの人の、あるべきさまに言ひしたためて、すこし心やすかるべき方に思ひ定まりぬるなめり。
51.47 匂宮、浮舟に逢えず帰京す
  宮は、御馬にてすこし遠く立ちたまへるに、里びたる声したる犬どもの出で来てののしるも、いと恐ろしく、人少なに、いとあやしき御ありきなれば、「すずろならむものの走り出で来たらむも、いかさまに」と、さぶらふ限り心をぞ惑はしける。
51.48 浮舟の今生の思い
  右近は、言ひ切りつるよし言ひゐたるに、君は、いよいよ思ひ乱るること多くて臥したまへるに、入り来て、ありつるさま語るに、いらへもせねど、枕のやうやう浮きぬるを、かつはいかに見るらむ、とつつまし。
51.49 京から母の手紙が届く
  宮は、いみじきことどもをのたまへり。
51.50 浮舟、母への告別の和歌を詠み残す
  寺へ人遣りたるほど、返り事書く。

浮舟 登場人物

 
名称よみかた役柄と他の呼称
かおる 呼称---右大将・大将殿・大将・殿・君、源氏の子
匂宮におうのみや 呼称---兵部卿宮・宮、今上帝の第三親王
今上帝きんじょうてい 呼称---帝・内裏、朱雀院の第一親王
明石中宮あかしのちゅうぐう 呼称---大宮・后の宮・宮、源氏の娘
夕霧ゆうぎり 呼称---右大臣・右の大殿・大臣・殿、源氏の長男
女一の宮おんないちのみや 呼称---姫宮・一品の宮、今上帝の第一内親王
女二の宮おんなにのみや 呼称---二の宮・女宮・帝の御女、今上帝の第二内親王
中君なかのきみ 呼称---宮の上・宮の御方・対の御方・上・女君、八の宮の二女
浮舟うきふね 呼称---女君・御前・君・女、八の宮の三女
中将の君ちゅうじょうのきみ 呼称---母君・母・親、浮舟の母
弁尼君べんのあまぎみ 呼称---尼君・尼
浮舟の乳母うきふねのめのと 呼称---おとど・乳母
時方ときかた 呼称---時方朝臣・左衛門大夫・出雲権守・守の君、匂宮の従者
大内記だいないき 呼称---道定朝臣・道定・内記・式部少輔・少輔、匂宮の家来
大蔵大輔おおくらのたいふ 呼称---仲信・家司、薫の家司、道定の妻の父親
右近うこん 呼称---右近・大輔が娘、大輔君の子
随身ずいじん 呼称---御随身・舎人、薫の随身
使者ししゃ 呼称---男、匂宮の使者

※ このページは、渋谷栄一氏の源氏物語の世界によっています。人物の紹介、見出し区分等すべて、氏のサイトからいただき、そのまま載せました。ただしあらすじは自前。氏の驚くべき労作に感謝します。

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公開日2021年3月11日/ 改定2023年10月31日