源氏物語  帚木・注釈

2 帚木

ことことしく ことごとしい(事事しい) おおげさである、たいそうである。引用
言ひ消たれたまふ 言ひ消つ は否定する意。光る君だなんてとんでもない。言葉尻をにごす意。あらわには話しにくい素行がい多いの意。 言いかけてやめる、前言を打ち消す。人の話を打ち消す、否定する。けなす、非難する。
かかる好きごと これからお話するような色恋沙汰。
軽びたる名をや流さむ 浮名をながす源氏の名が人に知れる。
隠ろへごと かくしごと。引用
さがなさ さがない たちがわるい、口が悪い。
さるは そうではあるが。源氏には非難を受ける行動もあるが、しかし・・・。上の語をうけて、それは・・・と説明する場合と、上とは矛盾することを、そのくせ、それでいてとつづける場合がある。
まめだちたまひけるほど まじめにと心がけておられたから。まじめにふるまっておられた。まめだつ 真剣な態度をとる、まじめに振る舞う、本気になる。
なよびか 上品であるさま、優美なさま。なまめかしく色っぽい。引用
交野の少将 散逸古物語の主人公で好色男として当時有名。
まだ中将などにものしたまひし時は 源氏がまだ中将であったころは。中将 近衛府の次官(従四位以下)。
大殿  おほとの 左大臣の舘。正妻である左大臣の娘葵の上をさす。
忍の乱れ  春日野のわかむらさきの摺衣(すりごろも)しのぶの乱れ限り知られず 春日野のわかむらさきの摺り衣 までが序詞。あなたのことを想い限りなく心が乱れております、が歌意。伊勢物語初段とかさなる。色好みの業平のように、ほかの女に手を出しているのか。古今集恋1にもあり。
さしもあだめき目馴れたる それほど、浮気っぽく、見なれている。あだめく 色っぽくふるまう。
うちつけの好き好きしさ  露骨な好色。うちつけ 遠慮のないさま、露骨。
あながちに引き違へ しいてその本性を反対にして。あながち しいて、強引に。
心尽くしなることを さまざまな物思いをすること、気をもませられること。
あやにくにて あいにく、憎らしい、意地が悪い、程度がはなはだしく。
さるまじき さるまじ そうあるべきではない、適当でない。
御物忌 おんものいみ 「物忌(ものい)」は凶日など身を慎んで家に籠っていること。ここは帝の御物忌であり、源氏も廷臣としてそれに従う。
大殿には 左大臣邸では人々が、の意。
恨めしく思したれど 源氏が妻の葵の上を顧みないため。
御よそひ 装束・飾り。転じて、支度・準備の意。妻の家で婿君の世話をする習慣があった。
宮腹の中将 「宮」は左大臣の北の方(帝の妹)で、葵の上と中将の母。
あだ人 心のかわりやすい人、まごころのないうわきもの。
ゆかしがれば ゆかしがる(床しがる、懐しがる) 見たがる、聞きたがる、知りたがる。
さりぬべき 「さ、ありぬべき」で、見せても差し支えなさそうな。
かたはなるべきもこそ 「かたは」は不完全、見苦しい。「こそ(あらめ)。「もこそ」は、危惧、不安をあらわす。/
うちとけて 気を許して、内心をさらけだして。
かたはらいたし そばにいずらい、見てはいられない。ここは、自分への手紙を人に読まれて、それを傍で見ているのは、やりきれない 意(玉上)
数ならねど、程々につけて (わたしのような)取るに足らぬ者でも、身分相応に。「ほどほど(程々)」それぞれの身分、身分相応。
おのがじし めいめい、それぞれ。
二の町 二番手の、二流の。
片端づつ見るに それぞれ一部分だけ。全部は読ませない。「かたはし」一部分。
それか、かれか 「それ」「かれ」は中将が具体的な人名を言ったこと、をさしている。
こにこそ 「そこ」は、場所を示す指示代名詞を二人称代名詞に転用したもの。
しも 「しも(めでたし)」 「しも」 (強めの助詞「し」に、感動の助詞「も」のついた語)強意を表す。
見たまへ知る 複合動詞 「見知る」の間に謙譲の「給う」が入った形。
随分に  身分から見れば。身分相応に。
心をやりて いい気になる、得意になる。
生ひ先籠れる窓の内なるほどは 将来ある箱入り娘の時代は。「養われて深閨にあり人いまだ識らず」(長恨歌)。「生い先籠れる」と続き、また「籠れる窓の内」と続く。
片かど ほんの才芸の一端を。「かど」は才能。
うちおほどき おおようである。おっとりしている、のんびりである。「うち」は接頭語。;
紛るることなき 「紛る」はほかのことに気をとられたり、手をとられたりすること。家事や世間の雑事をすることもない娘時代。
はかなきすさび 「はかなき」つまらない、取るにたらない。「すさび」あそび、なぐさみ。
ゆゑづけて ゆえあるようにする。ひとかどのものにする。
見る人 後見人、親兄弟、乳母、召使など。娘の周辺で(深窓の娘を)見る人。
ありぬべき方をばつくろひて ありぬべき方」「そのままで何とかやってゆけそうな方面。「つくろう」は体裁よく見せる、よくない点もよいように言う。
まねび出だす 「まねぶ」は見聞をそのまま伝える。
そらにいかがは 「そら」空に、実物を見ないで。
うめきたる気色も恥づかしげなれば 嘆息する様は、こちらが気後れするほどだったので(渋谷源氏)。「うめき」慨嘆するさま。「恥づかしげなれば」こちらが気恥ずかしくなるほど。
すかされ すかす(賺す) だます。例「たとえ法然聖人にすかされ参らせて、念仏して地獄におちたりとも」(歎異抄)。
 境目、程度の差。ここでは、それに位置する人。
耳たたずかし 聞くまでもない。「耳立つ」聞いて心にとまる。
隈なげなる なんでもよく知っていそうな。「くま」は光のとどかない所、かげ。
ゆかしくて 「ゆかし」 聞きたい、知りたい。
人げなき ひとげなし(人気無し)まともな人間らしくない、人並みでない。
直人の上達部などまでなり上り 直人(なおびと)平凡な格の人。四位以下の諸太夫層をさすことが多い。上達部(かんだちめ)公卿の別称。大臣、大・中納言、参議、及び三位以上の官人で定員約20名。今日の内閣閣僚であり、「上の品」にあたる。
我は顔にて われはがお 我こそはと自信ありげな顔つき。
言ひとほれる  「言ひとおる」は理路整然とよどみなく言う。
なほことなり なほ異なり(岩波)。
さは言へど 高い階級に昇ったとは言うけれど。
たづき 手段。
時世に移ろひて 時世(ときよ)時と世、時節、時代 。時代に流されて・押されて。
おぼえ衰へぬれば 世間からの声望・評判が衰えて。
こと足らず  事足らず。経済力が伴わない・足りない。
悪ろびたること 具合が悪くなる、みっともなくなる。
受領 実際に任地に赴任しない、いわゆる選任の国主に対し、実務をとる国主のこと。地方長官。引用
けしうはあらぬ 「けしうはあらぬ」で、たいして悪くない、まんざらでもない。中流階級で悪くない者を、たしかに選び出すことのできるに違いないご時世である。
世のおぼえ口惜しからず 世間の人から思われ(声望)
やすらかに身をもてなしふるまひたる 将来性もあり、経済力もあるので、ゆったりした生活をしている。
かはらかなり さわやかで、さっぱりしている。「乾く」と同義。
にぎははしきによる 「にぎははし」は、豊かである、富み栄えている、その形容詞。
異人 別人。他の人が言いそうな、あなたらしくもない。
憎む 憎まれ口をたたく。
うち合ひ  ぴったり合う、適合する、そろう。
なにがし 自称。男性専用用語。形式ばっているが、謙譲の意が強い。
何をしてかく生ひ出でけむ どんな育てられ方をして。
らうたげならむ人 「ろうたける」(女性が)洗練されていて上品である。かわいらしい感じの人。
ものむつかしげに 不様に。「むずかしい」⑤風情がなく、むさくるしい。見苦しい。
思ひやり 「おもいやり」こちらから思ってやってみたところ。推量したところ。
いといたく思ひあがり たいそう気位が高く。
はかなくし出でたることわざも 字を書き、歌をよみ、琴をひく、の類。
ゆゑなからず 「ゆえなし(故無し)」何の理由もない。趣がない、風情がない。「ず」は否定。風情がある。
白き御衣どものなよらかなるに 下着、何枚も重ねて着る。「なよよか」しなやかな様。上に直衣、下に袴を着けるのが普通で、ここは袴をはかずにくつろいだ姿。
おほかたの世につけて見るには 「おほかたの」特別でない、世間一般の。「世」男女のあいだをいう、夫婦仲、恋人関係。
とあればかかり、あふさきるさにて 「そゑにとてとすればかかりかくすればあな言い知らずあふさきるさに」(古今・雑躰・誹諧歌)訳:それゆえにとてそうすれば、こうなるし、こうすればああなるし、ええどうしたらようやら、片方が合えば片方がはずれてしまう。「あふさきるさ」事が行き違いになり、うまくかみ合わない。「合ふさ離るさ」「さ」は際、時。「とあればかかり」このようにすれば、あのようであり。「よい事をすれば悪い事があり」などの意。
なのめにさてもありぬべき人 不十分ながらもそのままでもよさそうな人。曲りながらもこれならばという人。「なのめに」十分とはいかずとも、そうとう程度に。
ひとへに思ひ定むべきよるべとすばかりに 他の女に目も移さず、一すじに決定する事の可能な頼り所(妻)とするばかりに。
わが力入りをし こちらが努力して。
同じくは (完全でも不完全でも、妻に迎えるという点では)同じことならば。どうせなら?
見そめつる契りばかりを捨てがたく思ひとまる人は 馴れそめて、夫婦になってしまった因縁だけを捨てがたく思って、(他の女には目もくれず)もとの女にとどまっている男は。(岩波)
ものまめやかなり 真面目(実直)だと世間から見られ。
何か 感動詞。なあに、どうしてどうして。どれほどの大事があろうか、たいしたことでもない。
世のありさまを見たまへ集むるままに 夫婦の状態を、私などが沢山見集めするにしたがって、世間の妻女には、想像もつかずひどく奥ゆかしいこともないね。(岩波)
足らひたまはむ 「たらひ」満足さす、十分である、及第する、の意か。(玉上)
おほどかに言選りをし 詳しく具体的に書かず、意中を明らかにしない。女が消息文を書いても大らかな用語の選択をし。(意志表示の不明確な語を用いて)
息の下 かぼそい声で言うことの形容。
なよびかに女し 「なよびか」優雅に、上品に。「女し」女を形容詞化したもの。
事が中に 妻(主婦)の用事が沢山ある中で。
なのめなるまじき人の後見 おろそかにできない人の世話。夫の世話のこと。「なのめねるまじき」いい加減であってはならない。「後見」世話。
もののあはれ知り過ぐし 物のあわれを十分理解して。
はかなきついでの情けあり 何かにつけてすぐ歌を詠んだりすること。遊び事(すさびごと・歌などを詠むこと)などを身につけ。「ついで」よいおり、機会。
家刀自 戸主の意、ここは主婦。「刀自」家事をつかさどる女性。/ トヌシ(戸主)の約。「刀自」は万葉仮名。
うちまねばむやは まねばむ 学ぶ 見聞した物事をそのまま人に語り伝える。
近くて見む人の 「見る」夫婦として暮らすこと。
語りも合はせばや 語り合いたい。話を共有したい。
あやなきおほやけ腹立たしく 「あやなし」道理に合わない。「おほやけ腹立たしく」直接自分に利害関係がないのに、義憤を感じること。
心ひとつに思ひあまる 自分の心ひとつのみに留められない。
あはつかに 間が抜けている。気のないさま。
子めきて おおようで物やわらかなこと。おっとりしていてすなおなこと。ほめことばである。紫の上・夕顔・雲井の雁・宇治の大君・浮舟などに用いられている。(玉上)
ひきつくろひて 体裁をととのえる、身だしなみをする。よそいきにする。
見ざらむ 「見る」は妻とすること。「む」は仮定。・・・素直な人があったら、・・・妻とするがよい。(玉上)
見るべきを 夫婦として暮らしてゆくことができようが。(玉上)
らうたき方 「らうたし」わいらしい。「方」(ある)面、点、方面。
あだ事にもまめ事にも 趣味的なことも実用的なことも。
頼もしげなき咎や、なほ苦しからむ 頼りにならない欠点が、やっぱりこまるであろう。
そばそばしく 「そば」は物のかど。することにかどがあって、親しみにくい。「子めきてやわらかならむ人」の対。
心づきなき 気に入らない、心がひかれない。
出でばえする (人前で)見栄えがする。
口惜しくねぢけがましきおぼえだになくは どうにもたまらぬほど、ひねくれた点さえなかったならば。せめて、ひどく残念なほど、ひねくれた評判さえなければ。
よるべ 寄る所。妻。
あまりのゆゑよし心ばせうち添へたらむをば 「あまりの」とは、「ものまめやかに、静かなる心のおもむき」以上に「あまり」としてある技量・資質。
うしろやすく 将来に関して安心できる、頼もしく感じられる、意。主として、浮気や嫉妬あるいは家事の処理に関する心配がないことをいう。/ 反対語は「うしろめたし」気がかりでない。女が貞淑で男が心配する必要のないこと。
うはべの情けは おりにふれての風流などは(玉上)。表面の情愛は、自然に、きっとつける事ができるものであるよ(岩波)。表面的な風流などはしぜんと身につけることができるものですからな(小学館)。
艶にもの恥ぢして ツヤっぽく 恥じらって。艶(えん)①風情あるさま②あでやかで魅力的なさま③しゃれて趣あるさま。
上はつれなくみさをづくり 上(うえ)表面。表面は平気を装い。「みさをづくり」は、辛抱する、平気である、の意。
言はむかたなく 「いうかたなし」言いようがない、言葉では表現しようもない。
はひ隠れぬるをり ひそみ隠れてしまうものである。
ことさらびたることなり 「ことさら・ぶ (殊更ぶ)」わざとらしいように見える。
長き世のもの思ひになる (縁が切れて)一生の物思いとなるのは・・・全くつまらない事である。
ひたすらに憂しとも思ひ離れぬ男 女が、心の中では「一途に恨めしい、つらい」とて、全く思い離れ(見限っ)たのではない男が、女が尼になったことを聞きつけて泣くと、尼になった女の召使いや老女房たちなどが。
あたら御身を 下に、「出家なさって・・・」の気持ちがある。
額髪 額から左右に耳よりも前に垂れる髪のこと。出家した女は、「尼そぎ」といって、頭髪を肩のあたりで切りそろえるので、、額髪も短く切りそろえられる。
うちひそみぬかし うち‐ひそ・む(打ち×顰む)顔をしかめて泣き出しそうになる。「ひそむ」顔つきがゆがむ、べそをかく、泣き顔になる。
念じえず 「念ず」がまんする。「え」は動詞、「ず」は打消し、終止形。
心ぎたなし 心がいさぎよくない、邪念が捨てきれない。
なま浮かびにては 「浮かぶ」は濁りから浮かぶ。悟り。「なま浮かぶ」は中途半端な悟りで、形だけの出家を揶揄した表現。
濁りにしめる 濁りは濁世。「しめる(占める)」自分の居所とする。濁世に居る(よりは)。
絶えぬ宿世浅からで 切っても切れぬ宿縁が深くて。男女が結ばれるか否かは前世からの因縁によるとされた。
尼にもなさで尋ね取りたらむ 『蜻蛉日記』の作者が出家を志して鳴滝へ参籠し、夫兼家によって連れ戻されてからは「雨蛙(尼帰る)」とからかわれるようになったことを念頭においているか。
やがてあひ添ひて 「やがて」すぐ、そのまま。そのまま(家出したりせず)連れ添って。以下「契り深くあわれならめ」まで挿入句の気持ちで読む。
きざみ ③時がたってゆくそのひと区切り。また、折。時。場合。引用
見過ぐしたらむ がまんして夫婦として暮らしてゆく。寛大に見逃しているとすればそんな夫婦の間柄こそ。
なのめにうつろう方あらむ人を 「なのめ」ふつう、平凡。たいしたことででないこと。「方」関係する人、女。ちょっとした浮気をしたような場合、その夫を。
をこがまし おこがましい ①ばかげている、みっともない。②出過ぎている、さしでがましい、なまいきだ。
見そめし心ざし みそめし 「見る」は夫婦として暮らすこと、「そむ」は染む、つづけること。「し」は過去の「き」の連体(玉上)。
やうならむたぢろきに、絶えぬべきわざなり 「さ」は前文の気色ばみ背かん」をさす。「たじろぎ」は躊躇、たじろぐこと、ぐずぐすすること。どさくさ、ごたごた(玉上)。もし夫に背いたとしたら)そんなどさくさで、たしかに、夫婦の縁が絶えてしまうに相違ないものである(岩波)。そんなふうなつまずきから仲が切れてしまうものなのです(玉上)。そんないざこざがもとで、縁が切れてしまうものです(小学館)。
わが心も見る人からをさまりもすべし 「わが心」夫の浮気心。「見る人」は妻。このあたり、叙述の視座が夫の立場と妻の立場とに揺れているが、多元的視座による叙述は、この物語にしばしば見られる(小学館)。
繋がぬ舟の浮きたる例も これは文選の鵬鳥賦に「澹(しずか)なること、深き淵の若(ごと)く、泛(う)きたること、繋がざる舟の若し」よるらしい。
げにあやなし ほんに、その句の通り、無茶である(岩波)。「あやなし(文無し)」①筋が通らない、理屈に合わない。②無意味である、かいがない。
頼もしげなき疑ひあらむ 信頼できないような疑い。
わが心あやまちなくて見過ぐさば 夫としては自分自身には落ち度のない生活をし、妻の至らなさを見ながらがまんして過ごしていれば。
さし直してもなどか見ざらむ (女の心を)改めさせてなりして暮らすがよいとは思われるけれど(玉上)。心を入れ替えさせてでも添いとげられぬことはあるまい(小学館)。
ますことあるまじかりけり ①ます(増す)…増加する、増加させる。②ます(勝す)…まさる、まさらせる。③ます(坐す)…いらっしゃる、おいでになる。この場合は②の意味になる。「源氏物語イラスト訳」参照。
さうざうしく心やまし (源氏が眠って口を出さぬので)「物足らず悩ましい」と思っている(岩波)。「そうぞうしく」あるべき物事がなくて、つまらない意。「心やまし」相手の態度にわが心が痛む、心よからぬ、おもしろからぬ(玉上)。
よそへて思せ 「よそえる(比える・寄える)」かかわりをもたせる。ことよせる。なぞらえる。たとえる。
臨時のもてあそび物 「りんじ」一時的な、その場限りの。「もてあそび物」おもちゃ、遊び道具、玩具。
跡も定まらぬ 跡 (定まった)形式。様式。先例。引用(学研古語)
そばつきさればみたる 「そばつき」外観。「手つき」「顔つき」の「つき」と同じ(玉上)。/「そばつき」そば(側)、つく(付く)。「さればむ」(ざればむ・戯ればむ)しゃれたさまをする、気取ったふうをする。見た目にしゃれている、一見して品がある。「源氏物語イラスト訳」参照。
さまこと 「さまこと(様異)」。様子が普通と変わって、異様であったり、すぐれていたり、あるいは出家の姿になったりすること。
ふとしも 副詞「ふと」を強めていう語。打消しを伴う。
絵所 宮中の役所の名。絵画をつかさどった。
すくよかならぬ山の景色 険しい山の景色。/ 唐絵の山は、けわしくそびえ、山の頂よりも中腹のほうが細くくびれていたりする。登れそうもない山である。「すくよか(健よか)」④なめらかでないさま。なだらかでないさま。引用。
その心しらひおきて 「心しらひ」心づかい、心くばり。「おきて」定め、描法。その心づかいや描法など。
そこはかとなく気色ばめる 「どことなく気どって・・・」「けしきばむ(気色ばむ)①様子を顔にあらわす。②気どる。③怒ったさまがあらわれる。
かどかどしく 「かどかどし(才才し)」才能がすぐれている、かしこい、気がきく。
時にあたりて気色ばめらむ見る目の情けをば その時々に気どっているような、眼前の情愛などは、頼むことができまいと思っております。
はかなきこと 細工物・絵・書をいう。人間の生そのものから見ればアクセサリにすぎないとの意。
はやう はやい(早い、速い、疾い、捷い)⑨(連用形を副詞的に用いて)まえから、かねて、以前、昔。
まほ 「真秀」の意。すぐれている。「かたほ」(不十分)の反対語。
とまり 最後にとどまる所、停泊地、終生の妻の意。
よるべとは思ひながら 頼り所、立ち寄る所。妻のひとり。
さうざうしくて 「そうぞうし」さくさくし、の音便で、『新撰字鏡』に「独座して楽しまざる貌」とある。(あるべき物やなるべき事がなく)物寂しい、物足りない。
とかく紛れはべりし 「紛る」は人目をごまかして行動する。女の目を盗んで他に女のもとへ行くこと。
心づきなく 心付き無し 気に入らない、心がひかれない。
かく数ならぬ身を はじめの「下﨟にはべりし時」を受けるが、また君達を聞き手にしているところからの自卑でもある。
見も放たで 「見放つ」の中に助詞の「も」が入っている。「見放つ」見切りをつける、関係を断つ、見捨てる、見限る
いかでこの人のためには 「この人のために」は、夫である左馬頭のために
なき手を出だし 「手」は手段。方法がなさそうな場合でもなんとか工夫して。
後れたる筋の心をも 得意でない方面のことも。不得意な面も。
なほ口惜しくは見えじ 左馬の頭に、だめだと思われまいと。
つゆにても心に違ふことはなくもがな 少しでも夫の心にさからうことのないように。
進める方 気の強い方。強ススム(類聚名義抄)/ 「なき手をいだし」たり、「思ひはげ」む性質。
とかくになびきてなよびゆき 「なびく」(夫に)なびく。「なよぶ」なよなよしている、柔和である。何かとかと、言うこともきき、優しくもなり。
疎き人に見えば 「疎い人」したしくない人。たとえば珍しい来客など。「見えば」見られる、会う。
面伏せにや思はむ (夫が)面伏せにや思はむと。「面伏せ」面目なく顔を伏せること、不名誉。
みさをにもてつけて いつも気をつけて変わらない態度をとる。「もてつく」は自ら務めて、一定の姿勢を身につける。
けしうはあらず 「けし(異し、怪し)」普通と違っている、異様である。
そのかみ 「かみ(上)」①(空間的に)高い所 ②(時間的にまたは順序で)初めの方。 その頃。 ///
この方も 「この憎き方」に同じ。嫉妬心。
さがなさ 性格の悪さ。女の強い嫉妬心を言う。
まことに憂しなども思ひて絶えぬべき気色ならば (左馬の頭が)まことに憂しなども思ひて絶えぬべき気色ならば。本当に嫌になったから縁を切る素振りを見せれば。
かくおぞましくは 「おぞましい」我が強い、強情である。
つらきことありとも 夫の浮気をさす。「念ずる」辛抱する。
のめに思ひなりて 「なのめ」は、平凡、たいしたことでない意。「思いなる」は意識して、そう思うようにすること。
かかる心 「わりなき物うたがひ」をさす。
人並々にもなり 一人前になる。人数に入る。
おとなびむに添へて 「おとなぶ」大人のような態度をする。しっかりと一人前の貫録がつく。/
並ぶ人なく 本妻となり、競争相手いなくなる。
われたけく言ひそしはべる 「われだけし(我猛し)」得意になっている、偉そうにしている。「そす」は過ごすの意に用いる。得意になって言いすぎる。
見立てなく 「見立てなし」見栄えしない、みすぼらしい。
ものげなき 「ものげなし(物気無し)」それと認めるほどの事もない、あまり目立たない。/ 貫録がない、ひとかどの者としての様子がない。
あいな頼み 「あいなき頼み」の略。あてにならない期待。
かたみに背きぬべききざみ 「かたみに」お互いに。かわるがわる。「そむく」⑤別れる。「きざみ」時がたっていくひと区切り。
ねたげに言ふ 「ねたし」(憎らしい、くやしい)思われるような相手の様子。
かこちて 「かこつ」他のせいにする、口実とする。
交じらひ 世のなかの交際、役人としての勤務など。
人めかむ 「人めく」②一人前の人間らしくなる。人並みに見える。
世を背きぬべき身なめり 女の「かたみに背きぬべききざみなむある」との言葉を受けての威嚇。「世を背く」には、夫婦仲を断つ意に出家する意をかけた。
手を折りてあひ見しことを数ふればこれひとつやは君が憂きふし 「憂き節」つらいこと、悲しいこと。竹の節にかけて用いる。指折りかぞえて連れ添ってきたあいだの出来事をかぞえてみるに、このことひとつがあなたのいやな欠点だろうかーほかにも多いじゃないか、の意(玉上)。/ あなたとの結婚生活を指折り数えてみますとこの一つだけがあなたの嫌な点なものか (渋谷源氏)。
憂きふしを心ひとつに数へきてこや君が手を別るべきをり 「こや」はこれやである。/あなたのいやな仕打ちをわが心ひとつにおさめて忍んできましたが、今度のがあなたと別れる機会なのでしょうよ(玉上)。/ あなたの辛い仕打ちを胸の内に堪えてきましたが今は別れる時なのでしょうか (渋谷源氏)。
言ひしろひ 「いいしろう」互いに言いあう、言い争う。
あくがれまかり歩く 「あくがれ」心が引かれて落ち着きがない。「まかりありく」「まかり」は出る・行く・来るの敬語。「ありく」は、うろつく、あちこちに出かける。
臨時の祭の調楽 賀茂神社の臨時の祭り。陰暦11月下旬の酉の日に行われる。「調楽」舞人・楽人が宮中の楽所で行う舞楽の練習。
これかれまかりあかるる所 「これかれ」調楽に参ったたれかれ、いくたりかの人。「あかるる」ちりじりになる。
旅寝 外泊。
すさまじかるべく 「すさまじい」①期待や熱意が冷えてゆく感じがする。気乗りがしない。②荒涼としている。③寒々している。
気色ばめるあたりは 気どっている女の家では。
なま人悪ろく爪喰はるれど 「なまひとわるし(生人悪し)」なんとなくきまりがわるい。引用。/ 「爪食う」はずかしがる様子をいう。もじもじする。
火ほのかに壁に背け 燭台(大殿油)には反射する物がつけられるらしい。その反射物を室の中央にむけ、光線を壁の方にむけるのである。寝室用にする。
萎えたる衣どもの厚肥えたる 「なえたるきぬども」うちとけたときは(ねまき、室内着)やわらかなのを着る。「あつごえたる」綿がたくさん入れてあって、ふくらんでいる。
 ふせご(伏籠)。伏せておいて、その中に香炉を置き、衣を上に掛けて、香をたきしめたり、温めたりする。
正身 本人。
夜さり 夜分。
いとひたや籠もりに ひたすら家に隠れ住むこと。
我を疎みね 「我」は女をさす。自分(女)を嫌いになってくれ。
さしも見たまへざりしこと 「見たまへ」「見る」は思うの意に近い。(それまでも)そのようには思われなかったのだが。
心やまし 不快である、いらいらする。
絶えて思ひ放つ 「絶えて」副詞 (下に打消しの語を伴って)少しも、ちっとも、全く、全然。「思い放つ」おもいきる、あきらめる。引用。
思うたまへて 「思ひたまへて」の音便。「たまえ」は下二段活用、自卑の助動詞、連用形。
かかやかしからず 「かかやかし」は「かかやく」(真っ赤になる、恥かしがる)の形容詞形。相手に恥をかかせないように気をつかって。
ありしながらは、えなむ見過ぐすまじき 「ありしながらは」今まで通りお心では。「みすぐす」「見る」は夫婦として暮らすこと。
あらためてのどかに思ひならば 「あらためて」心を改めて。「のどかに」落ち着いた気持ちで。
綱引きて 素直に従うことなく意地を張る。
戯れにくく 「たわぶれにくし」冗談にすることができない。うっかりふざけることもできない。
おぼえ 思われる、感じる。
ひとへにうち頼みたらむ方は 一生連れ添う本妻としては。すべてをまかせられる本妻ということなら。
さばかりにて 「さ」は、この女をさす。この女ぐらいで十分。
言ひあはせたる 「言い合せる」互いに話しあう、いいかわす。
龍田姫と言はむにもつきなからず 「龍田姫」龍田山は紅葉の名所で、その女神。竜田姫は秋の神、また染色の神とする。「つきなし(付無し)不似合である、不相応である。
織女の手 たなばたのて 七夕の織女星をさす。裁縫の神とされる。
のどめて ゆるめる、ひかえめにする。裁縫の腕は控えめにして。
あえまし 「あ(肖)ゆ」は、あやかる。牽牛、織女は年に一度の逢瀬だが、永遠に逢いつづるので、それにあやかりたかった。
つきなく 「つきなし」ふさわしくない。
はえなく 「はえ」は、「映ゆ」の体言形。はなやかにひきたつこと。
さあるにより伴侶とするに足る女性であっても、うまくいかないこともあるのだから。
難き世とは定めかねたるぞや 男女の仲をいう。「かたき世と、さだめかねたるぞ」。むつかしい世の中だと、妻定めには困っているわけなんだよ(玉上)。/難しいのは妻選びで、誰しも容易には決めかねているのですな(小学館)。/(妻選びは)かたき世ぞとは、(理想的な妻を)定めかねたるぞ。誰もする染め方一つですら、そんな下手もあるにより、これで十分だという、指喰い女の如き理想的な妻などは、選び出しがたい世の中だよとまあ、思い、「完全な妻」を決定しかねているよ、興を添えて話される(岩波)。
人も立ちまさり心ばせまことにゆゑあり 家柄もそうだが、人柄も、の気持ち。前の話題の女と比較してである。
このさがな者 指喰いの女。
こよなく心とまりはべりき すっかり惚れ込んでおりました。
まばゆく 派手で正視に堪えない感じをいう。
艶に好ましき 好色らいい。
目につかぬ所あるに 「目につく」は、好ましいものとして目に映る、の意。ここでは、好ましからざる。
かれがれに かれがれ(離れ離れ) 交際が疎遠になるさま。引用。
避きぬ道 避けて通れない道。
すずろきて 「すずろ」(なんとなくむやみに心惹かれるさま)の動詞化。
とばかり ちょっとの間、しばし、暫時。
移ろひ 「うつろふ」は、色があせる。霜にあたって変色する菊を鑑賞するのである。
蔭もよし 「飛鳥井に 宿りはすべし や おけ 陰もよし みもひも寒し みまくさもよし」(催馬楽・飛鳥井)
つづしり謡ふ 「つづしる」一口ずつ歌う。口ずさむ。引用。
けしうはあらず けし(異し、怪し)普通と違っている、異様である。「異しうはあらず」そう悪くはない。さほど不自然ではない。まあまあだ。
つきなからず つきなし(付無し)不似合である、不相応である。
ねたます 相手にねたましいと思わせる、くやしがらせる。
えならぬ 「えならず」いうにいわれず、一通りでなく。(よいものに関していう)。
さればみ好きたるは 「さればむ」しゃれたさまをする、気取ったふうをする。
さやうにもて出でたることは この浮気な女のように。
さのみなむ思ひたまへらるべき 見かけは気がきいていても、信頼できないのよりは、不細工でも実意のあるのを選ぼうと。
あえかなる かよわく、なよなよとしたさま、たよりないさま。引用。
たわめらむ 「たわめらむ」たわむ(しなやかに曲る)の命令形に完了の「り」の未然形と推量の「む」が加わったもの。
かたくな ③愚劣なさま、劣って見苦しいさま、頑固。引用。
もてつけたらむ とりつくろう。男に対する恨みを色に表さず、従順な人妻らしく気をつかって仕えるさま。
痴者 しれもの。 男女関係において、積極的言動に出ることをせず、引っ込み思案の人を言うことが多い。ここは夕顔をさす。
頼めわたる 「頼む」は他動詞下二段。あてにさせる。(女に)決して見捨てないと言ったりすること。「わたる」は継続を表す。/ 頼みに思わす、あてにさせる。
さらばこの人こそは 中将をさす。「この人こそは(頼まめ)」
のどけきにおだしくて 「のどけき」のんきである、のんびりしている。「おだしい」(わたしが)落ち着く。
この見たまふるわたり こ(中将の自称)の(格助詞、主格)見(夫婦でいること)たまふる(自卑の助動詞、連体形)わたり(名詞)。わたしが妻としている者(玉上)。
情けなくうたてあること けしからぬひどいことを。「うたて(転て)」副詞、②程度が甚だしく進んで普通とちがうさま、異様に、ひどく。③(あり、侍り、思ふ、見ゆ、言ふを伴い)いやだ、情けない。
さるたよりありてかすめ言はせたり 「さるたより」 先方に伝える役をつとめる者。「かすめ言は」ほのめかす、あてこする。/ 妻の方から、けしからぬ、ひどいことを、あるつてがあって、どうやら言わせたとのこと(玉上訳)。
おこせたりし 「おこす(遣る・致す)」先方からこちらへ送ってくる。よこす。
山がつの垣は荒るとも折々にあはれはかけよ撫子の露 表は、「山家にする賤しい家の垣根(私)はたとい荒れて(お構いなくて)も、たまには子の上に愛情をかけてください、垣根の撫子の花の露(中将)は」。裏は、「私に対しては、疎遠で打っちゃってお置きでも、子供の上には愛情を寄せてください、御身は」。子供を頼んだのである。「山がつ」はここは「山がつの家」の意味(岩波)。
うらもなき 「うら」は、心。「うらなし」は、人を疑わない、信じ切っている。男の眼にはそう見えたのである。
虫の音に競へる 女の泣く様。
咲きまじる色はいづれと分かねどもなほ常夏にしくものぞなき 前菜に咲き誇っている花(夕顔と娘)は、どちらが良いと優劣の区別はないけれども、私にはやっぱり常夏(夕顔)に勝っているものは、どうしてもない。常夏は妻とか愛人の意に用い、ここには夕顔に当てている。子供のことを「撫子」と言ってきたのに対し、「撫子」の別名「常夏」を取ってその母夕顔に当てた(岩波)。
大和撫子をばさしおきて、まづ『塵をだに』など、親の心をとる 大和撫子すなわち娘(玉鬘)のことはさしおいて、何より先に「塵をだに」などと、常夏すなわち愛人(夕顔)を親の意味に取って解した。『塵をだに据えじとぞ思う咲きしより妹とわが寝る常夏の花」(古今、夏、躬恒)。
うち払ふ袖も露けき常夏にあらし吹きそふ秋も来にけり 君がお訪わねば、二人寝る床に積もっている塵を払うわたしの袖も、涙の露に濡れがちな常夏(私の所)に、嵐が(中将の本妻からのひどい仕打ち)吹き加わる上に、常夏を吹き枯らす秋(御身の飽き)も来てしまったのである(岩波)。
はかなげに言ひなして 大したことでもないように言って。
あくがらさざらまし あくがる(憧る)一説に「あく」は「ところ」、「かる」は「離れて遠くへ去る」意の古語。①本来いるべき所を離れて浮れ出る。④離れる、うとうとしくなる(疎疎しい)。
さるものにしなして 本妻でないにしても、妾などのこの女に相応した扱いをして。
あはれ絶えざりしも (中将の)あわれが絶えない。中将が愛情を注ぎ続けている。
かれはたえしも思ひ離れず かれ、はた、えしも思い離れず。「かれ」あれ、あのもの、古くは人をも人以外のものをもさした。人の場合、男女ともにさした。「はた」もしや、ひょっとすると。「しも」(強めの助詞「し」に感動の助詞「も」の付いた語)強意を表す。
え保つまじく 「たもつ(保つ)」は、男が女をいつまでも捨てないでいること。
さしあたりて見むには 日々生活を共にするとなると。
わづらはしくよ、よくせずは ∗注 「さしあたりて見むにはわづらはしくよ、よくせずは」・・・この最初の「よ」については、渋谷源氏の校訂原文通りに書いたもので、誤植ではありません。その【校訂方針】は明融臨模本の原態復元を目指したとあります。後代の写本は見せ消し(ミセケチ)になっているそうです。当サイトに原文を使わせていただいている「源氏物語の世界」校訂本文差分のオーナーである柴田氏に確認しました。
吉祥天女 容姿豊麗で、衆生に福徳を与えるという天女。父は帝釈天、母は鬼子母神。毘沙門天の妹という。
法気づき 「ほうけづき」仏臭くなる、抹香臭い。
くすしからむ 「霊し」霊妙不可思議である、人間離れをしている。
けしきある 「気色あり」趣きがある、おもしろい。引用。
なでふことか、聞こし召しどころはべらむ 「なでふ」は「なにといふ」(どういう)の約。「か」は反語。/ 「か」⑥反語を表す。「かは」の形や文末では「ものか」の形で用いられることが多い。・・・か、いや・・・ない。/ どういうことか、お聞かせするようなお話はあるだろうか、いやありません。
文章生 もんじょうのしょう 当時の学制では、大学寮の教官として、博士(1人)・助教(2人)・音博士・書博士・算博士(各2人)。学生定員400人。諸学科中、平安時代には文章道が最も重んぜられ、その階梯は、学生→擬文章生→文章生→文章得業生→文章博士(従五位以下)と、試験を受けて上がってゆく。
口あかす 口をきく、意見をいう。引用。
はかなきついでに言ひ寄りてはべりしを 「はかない」とりとめがない。物事の程度などが、わずかである。ちょっとしたことで。試訳「何心なくい言い寄ったのを」
わが両つの途歌ふを聴け 『白氏文集』巻二、秦中吟の「議婚」。五言三十句。その末団十句をあげる、「主人良媒に会す。置酒して玉壷に満つ。四座且く飲むこと勿れ。我が両の途を歌うを聴け。富家の女は嫁し易し。嫁すること早けれども其の夫を軽んず。貧家の女は嫁し難し。嫁すること晩けれども姑に孝なり。聞く君、婦を娶むと欲すと。婦を娶る意何如。 この家のあるじは、腕ききの仲人を呼び、持ち出した酒は徳利いっぱいだ。さて、みなさんしばらく杯を置いて、私が貧乏人の娘と金持ちの娘のなりゆきを歌うのをお聞きください。金持ちの娘の縁談はすぐまとまる、結婚はすぐだけれども夫を馬鹿にする。貧乏人の娘はなかなかうまくゆかぬ、晩婚ではあるけれども姑によく仕える。あなたは結婚しようとしていると聞くが、結婚に対する心がまえはどうなのか(以上玉上)。
むべむべしく うべうべしく(宜宜し)に同じ。格式ばっている。
おのづからえまかり絶えで 自然に行くことをやめることもできずに。「で」助詞。文中にあって、前を打ち消して後の語句に続ける。・・・ないで。・・・ずに。
腰折文 下手な漢文。第三句(和歌・腰句)に難のあるものを腰折れという。
無才の人 (わたしのような)無才の人。
なま悪ろならむ振る舞ひ 「なまわろ(生悪)」なんとなくよくないこと、どこか不体裁なこと。引用。
はかばかしくしたたかなる 「はかばかしい」きわだっている、はっきりしている。「したたか」しっかりしている、いかめしいさま。手ごわい。
何にかせさせたまはむ 何の御用がありましょう。何の必要がありましょう。
宿世の引く方はべるめれば 前世の因縁に引かれますようで。
男しもなむ、仔細なきものははべめる 男というものは、全くいくじのないんものでございます。男というものは、まったく埒もないものとみえます。「仔細なし」別条ない、変わった事情はない。むずかしいことはない、面倒はない。引用。
すかいたまふ 「すかしたまふ」の音便。おだてる。
をこづきて おこづく 小刻みに動く。引用。
心やまし 不快である、いらいらする。
ふすぶるにや いぶる、くすぶる。転じて、すねる、やきもちをやく。
をこがましくも やきもちをやけるがらか、と身の程知らずの女にばかばかしくなる。
よきふしなりとも思ひたまふるに (縁を切るのに)よい機会だ。
世の道理を思ひとりて恨みざりけり 男女の間柄についてのい道理。女が男を恨んでも、どうにもならないというようなこと。
はやりかにて はやりか(逸りか、早りか)速度が速く、調子の軽い浮いたさま。引用。
さうざうし あるべきものがなくて物足りないこと、ものさみしい。
ささがにのふるまひしるき夕暮れにひるま過ぐせといふがあやなさ 「わが背子が来べき宵なりささがにの蜘蛛のふるまひかねてしるしも」(古今・恋四・墨滅歌)ささがに(笹蟹)はその形から蜘蛛の枕詞となり、蜘蛛の意にも用いられる。蜘蛛が巣を張るときは親しい人が訪れてくるという元来中国に起源をもつ俗信。「昼間」に「蒜間(にんにくの臭いがする間)」をかける。
逢ふことの夜をし隔てぬ仲ならばひる間も何かまばゆからまし 「まばゆし」に、まぶしいのと、恥かしいのと両意をかける。
をり すわっている、の意であるが、「ゐる」とちがって、見下したいい方である。
むくつけきこと むくつけし ①おそろしい、気味が悪い、こわい。②むさくるしい、無骨で疎ましい。
爪弾き つまはじき 人さし指の爪を親指の腹にかけてはじくこと。人を非難する動作。
いとほし いとおしい ①見ていられないほどかわいそうである、気の毒である。 ②困ったことである、われながらみっともない。③可愛い。
三史五経 三史は『史記』『漢書』『後漢書』。五経は、『詩経』『礼記』『春秋』『周易『尚書』をいう。当時の大学の標準的な教科。
愛敬 本来は仏教用語。情味豊かな優しい魅力。
かど 才気。
ことさらびたり ことさらぶ(殊更ぶ) 改まってする様子である、わざとらしい。
こはごはしき こわごわし(強強し)②ごつごつしている、なめらかにいかない。引用。
すさまじき 「すさまじ」は「荒む」を形容詞化したもの。場違いで歌を詠む気持ちになれないとき。
ものしきことなれ 「ものし」は、不快だ、疎ましい。
はしたなからむ ②不作法である、つつしみがない。③きまりがわるい、みっともない。
あやめ あやめ(文目)①模様、色合い。②物のすじ、条理、区別。「菖蒲」をかける。
思ひしづめられぬ 心を落ち着かせる。
えならぬ いうにいわれず、一通りでない(よいものに関していう)。えもいわれぬほどすばらしい。
九日の宴 陰暦九月九日の重陽の宴。天皇が紫宸殿に出御、宴会があり、席上探韻(韻字をあてて詩をつくる行事)がある。
つきなき 「つきなし(付無し)」 不似合である、不相応である。
心後れて見ゆ 「こころおくれ」①おそれひるむこと、臆病、気後れ。②心の動きが劣ること、気がきかないこと。
などかは、さても 「どうしてまあ、そんな事をしようか。そのままでよい」と思われる折とか時々を。
よしばみ情け立たざらむ 「よしばみ」よしありげにふるまう、もったいぶる。「情だたざらむ」「情だつ」は、いかにも情があるようにふるまうこと。
目やすかるべき 「めやすし(目安し)」 見苦しくない、感じがよい。
これ 『玉の小櫛』「・・・これとは、今馬の頭の論に、よろしとして願ふところをさしていふ。されば、この論によろしとするところに、たらざる事もなく、過たる事もなしと也」。石田穣二氏は「すべて心に知れらむ事ををも知らずがほにもてなし、言はまほしからむことをも、ひとつふたつのふしはすぐすべくなむあべかりける」を指すといっていられる(玉上)。
あやしきことども 猥談か?
大殿 おほいとの。ここは左大臣のこと。
まかでたまへり 「まかづ」は、l高貴なところから出ること。ここは、宮中から退出すること。
おほかたの気色、人のけはひ 「気色」は主に視覚的な、「けはい」は情感や雰囲気よる全体的な印象。「人」は葵の上をさす。
けざやかに 「け」は接頭語。明るく、くっきり、はっきり。
乱れたる だらしない、礼儀になずれる。
まめ人 「まめ人」まめな人、実直な人。正妻の条件であった。
頼まれぬべけれ 頼ま(四段活用動詞、未然形)れ(可能の助動詞「る」の連用形)ぬ(強意の助動詞、終止形)べけれ(推量の助動詞「べし」の已然形、「れこそ」の結び。
恥づかしげ 「はずかしい」②相手が立派に思えて、自分は劣っていることを感じて気おくれする。気詰まりだ。
さうざうしくて 「そうぞうし」あるべきものがなくて、物足りない。ものさみしい。/「そうぞうしい(騒々しい)さわがしい、うるさい。
中納言の君、中務 いずれも葵のづきの女房。
おしなべたらぬ 並々でない、水準以上の。容姿についていう。
あなかま 「あな、かまし」の」略。ええ、うるさい。しずかに。
中神 「中神」は天一神。陰陽道で説く。中央に立つゆえ中神という。十六日間は中央におり、それから四方に五日ずつ、四隅に六日ずつ遊行する。その遊行している方向に出かけてはいけないのである。ここでは、今宵宮中から見ての大臣邸および二条院の方角に、中神が来ているというのである。
さかし そのとおり。肯定の返事。
大殿籠もれり 「大殿籠る」「寝る」の敬語。
なめげ なめげ(無礼げ) ぶれいなさま、不作法なさま。
伊予守 紀伊の守の父。後に「伊予介」とある。次官の「介」を「かみ」と呼ぶことはしばしばある。守が任国に下らず、介が政務を行うとき、介をもも守と呼ぶ。息子の紀伊の守と同年配の若い後妻をもらう、それが空蝉である。父が亡くなったため、空蝉の弟も一緒に住んでいる。
人近からむ ひとちかい(人近い)人気が近い、近くに人がいる。
しつらひし 「室礼」の動詞化ともいう。室内の調度を整えること。屏風・几帳・敷物・脇息などを整備して、住めるようにすること。
さる方に 風流向きにふさわしく、の意。
渡殿 渡り廊下。その片側に小部屋が数個並ぶこともある。
思ひ上がれる気色に聞きおきたまへる女 気位を高くもっているようだと聞いておられた娘。後出の、伊予守の後妻、空蝉の父が彼女を宮中へさしあげようと志していた事情を、源氏は噂で知っていたらしい。
ゆかしくて 何となく知りたい、見たい、聞きたい。好奇心がもたれる。
まだきに 「まだき」早くから。
やむごとなきよすが定まりたまへるこそ 葵上(左大臣の娘)と結婚したこと。
思すことのみ心にかかりたまへば 藤壺への恋慕をさす。
人の言ひ漏らさむを 自分と藤壺との間の秘密を。
さしたまひつ 「さす」は、動作を途中で中止する意の接尾語。
ほほゆがめて 事実と違う、間違う。
式部卿宮の姫君 式部卿宮 式部省の長官を務める親王、桐壷帝の弟。この姫君の話は、ここに突然出てくる。
くだもの 「木だもの」で、木の実が原意。転じて加工した菓子類をもいう。
とばり帳も、いかにぞは 「わいへんは とばり帳も 垂れたるを 大君来ませ 婿にせむ み肴に 何よけむ あはびさだをか かせよけむ」(催馬楽・我家 わいへん)「わいへん」は我家。帳は御帳台のカーテン。。「さだを」はさざえ。「かせ」はうにで、女陰に似るところから、女を暗示。
さる方の心もとなくては 「さる方の心となくては」誤植?「我家」にあるようなもてなし。女性の接待。
何よけむとも、えうけたまはらず 前引の催馬楽「我家」の一句を用いた。源氏の言葉を冗談と解した。「えうけたまはらず」はお言葉の意味が分からない、の意。紀伊守は源氏の言葉の意味に気づかぬふりで、まじめくさった態度をとる。
子ども 「ども」は複数を表す。
伊予介 今まで「伊予の守」と言ってきた紀伊の守の父。じつは介(国主の次官、副知事)であったのだ。守が任国に下らず、介が政務を行うとき、介も守という。
あてはか 品がよい。
かなしく 「かなしい」②いとおしい、かわいくてたまらない。
けしうははべらぬ あやしいまでにはなはだしい。(普通、「けしうはあらず」など否定を伴った形で使われ、それほど悪くない、そう不自然ではない、などの意となる。それほど悪くない
すがすがしうはえ交じらひはべらざめる 「すがすがしう」とどこおりなく。「交じらいはべらざめる」「交らう」は交際する。殿上にでて人々と交際する。宮仕えする。
まうとの後の親 「まうと(真人)」天武天皇のときに制定された八等の姓(かばね、氏の等級)の第一位。第二が朝臣(あそん)。ここでは、おんみ、ごへん、ぐらいの意味に用いられている。/ 父の後妻できたので、紀伊の守の若い親になった。
似げなき親 不似合に若い母親。空蝉は夫の子供たちと同年配。
 男女の仲。
およすけ 「およすく」は大人びる、ませる。
かしづくや。君と思ふらむな 「かしづく」大事にする、後見する、世話する。/ 大切にして護っているか。主君とあがめ思っているであろうな。
いかがは いかがは(かしづかざらむ)。
私の主 「私」は「公」の反対語。私生活上の。/ 如何にも、大切な主君と思っているように見られるのでございますよ。「私の主」の私は、「大切におもぃかしずく」の意に用いた語。/ 自分一人は主人と仰ぐ意。
好き好きしきとと、なにがしよりはじめて、うけひきはべらず 好色めく。/ 好色な事だと、拙者から始め、兄弟達一同が承認いたしませぬ(不承知でございます)。「うけひく」承認する。同意する。
つきづきしく 似つかわしい、ふさわしい。「おろしたてむ」下ろし渡す。
えやまかりおりあへざらむ まだ居残っているかもしれません。/「えや」どうしてできようか、とてもできないのではないか。「まかりおりあえざらむ」「まかりおり」 下屋へ退出する 「おり」下り 「あえず」 しきれない、し終わらない。イラスト訳より参照。
とけても 「とける(解ける)③心がゆるむ、安心する。
いたづら臥し 「いたずらいね(徒意ね)」空しくひとり寝ること。ひとりね。
かくいふ人 紀伊の守が話していた人、伊予の守の後妻(空蝉)。
あはれや 入内さえ望んでいた女が、今は地方長官の後妻になっていることの感慨と同情。「ああ、気の毒な」「かわいそうな」
ものけたまはる 「もの承る」の約。お尋ねします、もしもし、にあたる。
いもうと 男からは、姉をも妹(いも)と呼び、女からは、弟をも兄(せうと)と呼んだ。
みそか 「みそか(密)」ひそか、ないしょ。
ねたう、心とどめても問ひ聞けかし 憎らしいなあ。空蝉が眠たげにして、衣に顔をさし入れ、よく聞く風もないので、源氏は自分に関心が少ないのかと感じて、つまらなく思ったのである。
中将の君 空蝉に仕える女房の名。伊予介の宅から空蝉についてきているらしい。
中将召しつればなむ 源氏が中将であることは、この帚木の冒頭で紹介されている。女が求めたのは侍女の中将である。自分をお召しになったので、と、源氏はぬけぬけと言う。
しるし 験(げん)、ききめ、かい。
 超人間的なもの、ものもけ。
うちつけに、深からぬ心のほどと見たまふらむ 出来心だ、いい加減な気持ちからだとお思いになるのも、もっともですが。/出し抜け(突然)で、深くない(一時の)私の心(出来心9に過ぎない程度だと、御身が御覧なさるとしても、それは尤もであるけれども。
息の下なり 声がかすかである。
消えまどへる気色、いと心苦しくらうたげなれば、をかしと見たまひて 死ぬ(気を失う)程、途方にくれている空蝉の様子が、大層気の毒で、可愛らしげであるから、源氏は、心の中に美しいと御覧なされて。
思はずにもおぼめいたまふかな 「思わずにも」以外にも。「おぼめい」おぼめきの音便形、「おぼめく」 ③そらとぼける。
好きがましきさまには、よに見えたてまつらじ 乱暴はしない、胸の思いを伝えたいだけ、と女に迫る常套的なせりふ(岩波)。「よに見えたてまつらじ」あなたに「見られたてまつらじ」。しない意の受けて尊敬の最高の言い方(玉上)。
動もなくて 動ずることなく、平気で。
この人の思ふらむことさへ、死ぬばかりわりなきに 「この人」中将のこと。(空蝉は、自分のつらさだけでも、死ぬほど困っている)その上、中将が思うかもしれないことまでも、死ぬほど、どうにもならず、つらいと思う故に(岩波)。
例の、いづこより取う出たまふ言の葉にかあらむ いつものとおり、どこからお引出になるお言葉なのか(玉上)。/「例の」とあるが、源氏のこのような行動は、これまでの物語には書かれていない(岩波)。
のたまひ尽くす 「宜たまひつくす」「言いつくす」(あらん限りの言い方をする)の敬語。
思しくたしける 「おぼしくたす」は、思いくたす(けいべつする、かるく思う)の敬語。
いかが浅くは思うたまへざらむ 前文に源氏が「さらに浅くはあらじ」と言ったのを受けて、「心ばえ」の内容を自分に対する軽蔑にすりかえて、切り返したもの。「どんなにか浅い心でしょう、そう思わざるを得ないです」
かやうなる際は、際とこそはべなれ 全く私のような数ならぬ身分の者は、数ならぬ身分の者と縁を結ぶとこそ申します。「際は際」は、貴人は貴人。下衆は下衆と、「身分相応な相手と語らう」の意。
おし立ちたまへる 「おしたつ」無理を通す。/ 無理おしに行動なさるのを、空蝉が心の底から深く、「思いやりがなく、つらい」と、思い込んでいる様子であるにつけても、本当に、それが気の毒であり、源氏自身も又、気恥ずかしく思う空蝉の状態なので。
その際々を、まだ知らぬ、初事ぞや あなたのおっしゃる身分の相違を、まだ知りもせぬ初心の振舞です(玉上)。/ (「際は際」の恋と言われるが)私はまだ、その際々の恋という経験を知らない、初心のことであるよ(岩波)。
 「つら」同類。
うたてありける 残念である。「うたて」③(次に「あり」「侍り」「思う」「見ゆ」「言う」などの語に伴い、また感嘆文の中に用いて)心の染まない感じを表す。どうしようもない、いやだ、情けない、あいにくだ。
あながちなる好き心は 「あながち(強ち)」強引であるさま。「好き心」好色な心。
さらにならはぬ さらに(ぜんぜん、ちっとも) ならは(習慣になる)ぬ(打消し)。
さるべきにや 「さるべし(然るべし)」そうあって当然である、そういう因縁である。/ そうなる運命であったか。/ 前世からの因縁であたろうか。
あはめられたてまつる 淡む、うとんずる、ばかにする。「あはめたまふ」(けいべつなさる)よりも、女を尊敬する言い方である。
ことわりなる心まどひを、みづからもあやしきまでなむ 道理(尤も)である、私の取り乱した心の混乱を、私自身ですらも、どうも不思議な程までに思われまするなど(岩波)。
いよいようちとけきこえむことわびしければ たとい、心を許して打ち解けもうそうとしたところで、それはいよいよ困ることだから。
すくよかに心づきなし 「すくよかに」はっきりと。「心づき無し」気に入らない、心がひかれない。
さる方 色恋の道。
折るべくもあらず 女と契ることを言う語。
※注 次に「まことに・・・」の文との間に、それまで拒み続けた女との間に強姦に近い形で契りが果たされたことが省かれている。「折るべくもあらず」のあとの空白の中に、かなりの時間の経過と紆余曲折があったことを読者に察せさせる。男女の情交そのものについては、記述しないのがこの作者の常である(小学館)。
心やましく 人の好意が自分の意に添わず、いらいらすること。むしゃくしゃすること。/ 不快であること、いらいらすること。
あながちなる 「あながち(強ち)」あまりに、強引であるさま、身勝手であるさま。
言ふ方なし 言いようがない、言葉では表現できない。
見ざらましかば口惜しからまし 前文の女の泣く姿とともに、情交のあったことを明らかにする。/「・・・ましかば・・・まし」現実に反することを想像することを表す。「見る」女をみるのは特別の男、結婚相手、夫である。結婚、夫婦として暮らすことを意味する。「口惜し」残念だ、不満だ。
慰めがたく、憂しと思へれば 源氏に身をまかせたことに対する、(夫を思うゆえの)憂さ辛さを思っているから。
ぼえなきさまなるしもこそ、契りあるとは思ひたまはめ 予期しない状態である逢う瀬こそ、前世の縁があるのだとお思いなさるがよいであろう。「契り」②前世からの因縁。div>
 男女の仲。/ まるで男女の仲など理解できないかのようにとぼけなさるのが。
おぼほれたまふ ぼんやりする、ぼける。/ 途方にくれる。/ 知らないふりをする、とぼける。
いとかく憂き身のほどの定まらぬ 伊予の介の後妻に定まらない(未婚の時に)。
我が頼み 自分だけの勝手な期待。
見直したまふ後瀬 いつかは本当に愛して下さる時があろうかと。「後瀬(のちせ)」つぎに会う時。
浮き寝 水鳥が浮かんだまま寝ることから、転じて、一夜きりのはかない逢瀬。
よし、今は見きとなかけそ>「よし」しかたがない、ままよ。「今は」こうなった以上は、もはや。「見ときなかけそ」「それをだに思う事とてわが宿を見きとな言ひそ人の聞くかに」(古今集15、恋5)「せめて私の事をあなたが思ってくださったしるしとして、どうぞ私の家に通ったことがあるなどといってくださいますな。人の耳にはいりましょうから」を引き歌としている。
おろかならず契り慰めたまふこと多かるべし (源氏の君が)粗略ならず親切に、今後の事を約束し、慰めなさることが沢山あるだろう。
鶏も鳴きぬ 一番鶏が鳴く。鶏鳴とともに女と別れて帰宅するのが、男の習慣であった。
いぎたなかりける 前後も知らず、ぐっすり寝ること。「い」は寝ること。
さしはへてはいかでか わざとは、どうして、ここに来ることができようか、できない。「さしはえ」わざわざ。
いかでか、聞こゆべき どうゆう風にして消息をしましょうか。
いと苦しがれば (中将が)大変困っているので。
世に知らぬ御心のつらさも、あはれも、浅からぬ世の思ひ出では 世に知らぬ(空蝉の)御心のつらさも、(源氏の感じる)あはれも、(共に)浅からぬ世の思ひ出では。/ この世に類例を知らない御身の心の無情につけても、また、わたしの愛情につけて、どちらも共に浅くない、男女関係の思い出としては、それぞれ珍しいはずの例ですね(小学館)。/「世の知らぬ」例を見ない。
つれなきを恨みも果てぬしののめにとりあへぬまでおどろかすらむ あなたの無情を恨みきれないうちに、はや夜明けになってしまった。だのに鶏は、とるものもとりかねるほど急がせて、私を起こすとは(玉上)。/空蝉の無情(冷淡)な態度を恨んでしまわないうちに夜明けになったため、鶏は、私が取る物も取り切らぬほどまでに(落ち着かず、慌ただしく)私になぜ目を覚まさせるのであろう(岩波)。「驚かす」は「目を覚ます」。
つきなく にあわしくない、ふさわしくない。
すくすくしく すげない、ぶあいそうだ。
伊予の方 伊予の国の方角。
夢にや見ゆらむ 空蝉は秘密を、夫から夢に見られるであろうかと、何となく恐ろしく気がひける。/ 当時人を思うと、その人の夢に自分が現れると信じられていた。
つつまし ある事柄をしたり、ある状態を他に知られたりすることが、遠慮される。気恥ずかしく感じられる。
身の憂さを嘆くにあかで明くる夜はとり重ねてぞ音もなかれける 女の返歌。自分の身の不遇を嘆いても嘆いても嘆きたらないあいだに、もはやあけはなたれてしまったこの朝、鶏の声とともにわたくしもまた、悲しさをつつみきれず、声をあげて泣いています(玉上)。我が身のつらさをを、十分に嘆かなくて明ける夜は、身の嘆きの上に、夜の明けた嘆きを取り重ねて、声まで立てて泣かずには居られないのである(岩波)。
ことと  何事にまれ、そのことをとりたてて事とする意[玉の小串](玉上)。/ ぐんぐん明るくなるので。
引き立てて、別れたまふほど、心細く、隔つる関と見えたり 障子口の襖を閉めてお別れなさる時、源氏は物淋しくて、閉めた襖が二人の間を隔てた関と思われた。
月は有明 夜が明けてからも、まだ空に出ている月。
めやすく 無難である、見苦しくない。
隈なく見集めたる人 すっかり体験している左馬頭の
このほどは 最近は。
かき絶えて、思ふらむこと 「かきたえて」は「思ふ」の内容を示す。「かきたえてト思ふ」である(玉上)。空蝉に音信が絶えているため、(空蝉が)どう思っているか。
朝臣の弟や持たる 「朝臣」二人称、あなた。伊予の介の子を産んだのか、の意。生んでいれば紀伊の守の異母兄弟になる。女と伊予の介の仲について、探りを入れたもの。「おとうと」は「おとひと」で弟・妹の両方に用いる。
心ゆかぬ 「心ゆく」は満足する。
けし[異し・怪し] ①普通と違っている。異様である。特別である。 ④(性向・容色・身分・病状などの程度が)あやしいまでにはなはだしい。(普通、「けしうはあらず」など打消しを伴った形で使われ、それほど悪くはない、そう不自然ではない、などの意となる)。(広辞苑)引用。
うとうとしく 親しくない意の「うとし」を強めていう語。
なまめく [艶く・生めく] (「なま」は未熟・不十分の意で、未熟のようにみえる意を表すが、実は十分に心用意があり、成熟しているさまが感じとれるのをいう)①若々しくみえる。ういういしいさまである。②しっとりと上品なさまが現れる。優雅である。
あて人 [貴人]身分のある人、上品な人。引用
いもうとの君 「いもうとは」女きょうだい。姉の空蝉をさす。
うち出でにくし (源氏が)言い出しにくい。
かかることこそはと、ほの心得るも 源氏と姉が恋仲であるらしいことを、何となく分かる。
はしたなくて まがわるい。かっこうがつかない。困ってしまう。(玉上)
心得ぬ宿世 親が宮仕えと思っていたのに、年老いた受領の妻となってしまった自分をはかなんでいた時、光る源氏をいう当世第一の男に思われる数奇な自己の運命。(玉上) 「心得ぬ」意に沿わぬ、納得のいかない。「宿世」前世からの因縁。
臥したまへり 敬語。空蝉につけるのは異例なこと。空蝉の態度が、立派だと、語り手が共感したか?
寝る夜なければ 「恋しきを何につけてか慰めむ夢だに見えず寝る夜なければ」(拾遺・恋二 源順)を本歌としている。これによって歌を補足した。本歌の方に源氏のストレートな気持ちが出ている。
またの日 [又の日]①次の日。翌日。②別の日。後日。
御返り 源氏の手紙に対する空蝉の返事(歌を含む)
聞こえよ きこゆ(「言う」の受手尊敬)の命令形。「よ」は助詞。(玉上)/ 「言う」の謙譲語。(広辞苑)
違ふべくも 人違いであるようにも、源氏の君は仰せられなかったのに。(岩波大系)
残りなくのたまはせ (源氏が小君に)残らず話してしまったのかと思うと。
いで、およすけたることは まぁ、ませたことは(言わぬがよい)。(玉上)/ 「およすぐ」①成長する。②子供どもが年齢に比べて早く知恵ずく。ませる。(広辞苑)
な参りたまひそ 「な・・・そ」は禁止の意を表す。
召すには、いかでか (源氏の君から)お呼びがあったのですから、参らぬわけにはいきません。いかでか(参らざらむ)。 
好き心 色好みの心。異性への興味。すきごこち。(広辞苑)  
あたらしきもの (アタラはアタル(当る)と同源か。アタは相当する意。対象の立派さ、すばらしさを認め、その立派さに相当する状態にあればよいのにと思う気持ちを表す。平安時代以後「新(あらた)し」と混同した)
 あたら・し[可惜し]①このままにしておのは惜しい。惜しむべきである。もったいない。②(そのままにしておくのは惜しいほど)立派だ。すばらしい。(広辞苑)
あひ思ふまじき 「あひ思ふ」互いに思う。思いあう。
「あひ思ふ」などというのは同性愛だ。『源氏物語』で「子君」と呼ばれるのが、もう一人いる。宇治十帖後半のヒロイン浮舟の弟である。浮舟がゆくえ不明になってから、薫は女の代わりにかわいがっている。これも同性愛である。それから、紅梅の巻に大納言の若君を兵部卿の宮がかわいがるとあるが、これもその義理の姉の代わりとしてなのである。殿上童なども同性愛の対象にされることがあったであろう。この変態性欲は、僧侶のあいだに広く行われ、俗人にも広まったらしい。
源氏は二度目の手紙を渡して、さらに説得に努める。こっちが先口だ、と言う。子供をいいくるめようとするのだが、その中で「頸細し」と自分のことを言っている。源氏の体格を知る唯一の語である。女のために女が書いた『源氏物語』のヒーローは、女好みの体格であり性格である。まさに少女歌劇の男装の麗人だ。
紀伊の守より源氏の方が、権力もあり財力もある。義理の親子でもないから、人の思わくを心配せずに、正々堂々と小君をかわいがる のである。(玉上)
いづら< 所在を問う語から転じて人を促すことば。ここの「いづら」は「どれ、どうだ」などの意。
見し人ぞ 「見る」は、契りを結ぶの意。自分は女を(先に)見し人なるぞ。 
頚細し 実際に首が細いと源氏の体格のことを言ったのか(古典セレクション・玉上)、あるいはひとつの形容で、「心弱く思う、心細く思う」(岩波大系)。/ 源氏の体格を知る唯一の語。(玉上)
ふつつかなる [不束]①太くしっかりしていること。②(ごつごつして)不格好なこと。ふていさいなこと③(ごつごつして)風情がないこと。無骨。(広辞苑)
御匣殿 みくしげどの 源氏の君専属の裁縫所。ふつう「みくしげどの」とは、宮中貞観殿の中、后町の北にあって、御服などを裁縫する役所をいい、またそこ勤める女官をいうが、ここは源氏の邸内の裁縫所、裁縫係である。(玉上)
心よりほかに散りもせば (秘密は、空蝉の心の中にだけしまっておきたいのであるが、小君とてまだ子供だから、何かの間違いで)意外にもし噂でも広まれば。「散る」は、秘密に関する評判が、世間に広まること。(岩波大系)/ 「心より外」 ①思いもよらない。意外。②本意ではなく。心ならず。(学研全訳古語) 
軽々しき名さへとり添へむ (源氏との秘密の交渉が良くない上に、幼少な子君などに消息を託したという)軽率の評判まで取加えるかもしれない。(岩波大系)/ 落として誰かに拾われたら
身のおぼえをいとつきなかるべく 「身のおぼえ」わが身の評判、世評、噂。「つきなし」[付無し]②不似合である、不相応である。(広辞)
めでたきこともわが身からこそと思ひて 結構なお話も、その資格があってこそ実ものだ、の意。(小学館古典セレクション)/ 源氏に愛される結構なことでも、自分の身の故からこそ結構でもあり、又、結構でもないんであると。(自分は今、人妻の身故、愛されることは決して結構なことではない。(岩波大系)
げに、なべてにやは 「げに」まことに、世間の噂に違わず。「なべてにやは」 普通(並べて)ではない。特別だ。「やは」反語。
をかしきさまを見えたてまつりても 風流な様子をお見せしたところで。源氏の相手となること。/ 「をかし」①こっけいだ。おかしい。変だ。②興味深い。心が引かれる。おもしろい。③趣がある。風情がある。④美しい。優美だ。愛らしい。⑤すぐれている。見事だ。すばらしい。(学研全訳古語)/ 源氏のお遊びに付き合ったとしても。
おこたる ③(ききめなどが)途中で弱まる。④途中で休止する。とぎでる。(広辞苑) 
思へりし気色などのいとほしさも あの夜、空蝉が煩悶して、物を思っていた様子などの、気の毒さも、晴らそうとしても晴らす方法がなく、心にかかって、思い暮らしなさる。(岩波大系)悩んでいた様子の可哀そうだったことも、わすれるてだてもなく、思いつづけていらっしゃる。(玉上)
「晴けむ片なく」源氏の心が晴れることなく。
便なき振る舞ひ びんなし[便無し]①折がわるい。都合がわるい。②不都合である。あってはならぬことである。(広辞苑)/ 「あらはれむ」露顕する。
思したばかりつらむ 「思いたばかる」の敬語 工夫する。(玉上)/「思し」「たばかる」の二語。「たばかる」[謀る]①思案する。思いめぐらす。③謀り欺く。だます。(広辞苑) 工夫する。
人げなき 人間らしくもない。
なほさて待ちつけきこえさせむことのまばゆければ 「待ちつく」は、待ちに待っていて、やっと逢う。そのまま(消息のあったまま)で、源氏を待ち受け申し上げようとしても、その事が(やっぱり)恥かしいから。「きこえさす」は源氏に対する尊敬。「まばゆい」③気恥ずかしい思いがする。きまりがわるい。(広辞苑) 
うち叩かせなどせむに 召使に肩や腰などを叩かせる。
渡殿 渡り廊下。その片側に小部屋が数個並ぶこともある。
中将 ちゅうじょう。 先夜出会った空蝉に仕える女房。伊予介の宅から空蝉についてきているらしい。源氏と空蝉のことをただ一人知る。
さる心して (女に逢おうという)下心をもって。
人とく静めて 侍従たちを早めに寝かせて。
かひなしと思さむ 小君は頼みがいがない、と源氏が思うだろう。
けしからぬ けしからず[怪しからず]①あやしい。異様である。常軌を逸している。②よくない。感心できない。わるい。(広辞苑)
心ばへ[心延え」①気だて。性格。心ばせ。②思いやり。心づかい。
おさへ あんま・指圧などをすること。
いと、かく品定まりぬる身のおぼえならで・・・ 本当に、こんな(受領の妻として)身分(階級)が定まってしまっている境遇でなくて、亡くなってしまった親の御様子が残っている実家におりながら、ごく稀にでも、源氏をお待ち受け申すならば、興味もあるだろうがな。(人妻になってしまった今では、興味も風情もないけれども。)(岩波大系)
思ひ知らぬ顔に見消つも 源氏の厚志を無視するにつけても。(岩波大系)
いかにほど知らぬやうに思すらむ (わたしが)どんなに身の程を知らぬように(源氏の君は)思われることだろう。
心ながらも 自分で決めたことではあるが。自分の心のままにではあるが。
無心に心づきなくて止みなむ 人情知らず(無神経)で、源氏の君に気に入らなくて、おしまいまで、きっとやり通してしまおうと決心した。(岩波大系)「無心なり」思慮がない。情を解さない。「心づきなくて」 心づきなし 気に入らない。心がひかれない。
たばかりなさむ (小君が)どうやってやり遂げるか。たばかる[謀る]①思案する。思いめぐらす。③謀り欺く。だます。/ 工夫して成就する。
聞こゆれば 小君が源氏に(言う)。
不用なるよし むだである。役に立たない。/ 不首尾である。/ うまくうかない。
あさましくめづらかなりける心のほどを あきれる程、世にも珍しいものであった、空蝉の強情な心の程よ。/ 「あさましい」 驚くべき程の、あきれるほど甚だしい。/ 心のほどを 「を」は感動の助詞。河内本と別本は「心のほどかな」とある。これだと、「あさましく」または「めづらかなる」からを源氏の言ったことばと見なくてはならない。(玉上)
いとほしき 気の毒な。可哀そうな。
とばかり しばし。暫時。しばしの間。
身もいと恥づかしくこそなりぬれ このわたしの面目もまるつぶれになった(小学館 古典セレクション)。/ 自分まで恥かしくなってしまった(玉上)。
はずかしい [恥かしい]①自分の至らなさ・みっともなさを感じてきまりがわるい。過ち・罪などを意識して面目ないと思う。②相手が立派に思えて、自分は劣っていることを感じて気おくれする。また、気がおかれる。気詰まりだ。③こちらが恥かしくなるほと相手がすぐれている。④何となくてれくさい。(広辞苑)
帚木の・・・ 本歌「園原や伏屋に生ふる帚木のありとて行けど逢わぬ君かな」(古今六帖・五、新古今・恋一 坂上是則ー四句「ありとみえて」)。帚木は信濃国(長野県)の伝説に、同国下伊那郡の「園原伏屋」の森にあった木。梢はほうきのようで、遠くから見ると見えるが、近くによると見えなくなるという。女をそれにたとえる。/その原には「ははき」(ほうき)を逆にしたような木があった。「あやなく」[文無し]筋道が立たない。理屈にあわない。わけもわからず。/ 歌意 帚木のように近づけば見えなくなってしまうあなたの気持ちをしらず、園原に来て道に迷ってしまった。
 ③手段。方法。
いとほしさ ①見ていられないほどかわいそうである。気の毒である。いたわしい。
わびたまふ 女が、である。河内本「女はわびたまふ」。空蝉に対する敬語。一般に、物語の地の文で敬語をつけるのは、三、四位以上の人である。空蝉に敬語をつけるのは異例で、語り手が空蝉の態度をほめる気持ちを表すためとか、女主人としての印象を与えるためとか解釈されている。
臥したまへり 敬語。空蝉につけるのは異例なこと。空蝉の態度が、立派だと、語り手が共感したか?
いぎたなき 「いぎたない」眠りこけている。 
一所すずろにすさまじく思し続けらるれど 「一所(ひとところ)」 源氏の君一人だけ。「すずろに」はっきりした理由なしに。「すさまじく」熱がさめていく。面白くない。興ざめる。 / 皆は寝入っているが、源氏の君一人だけはなんとなくつまらなく思い続けている。
人に似ぬ心ざまの、なほ消えず立ち上れりける 類のない女の気強さが、依然として消えるどころか、立ちのぼるばかりに気位高く保たれているのだと思うと(小学館古典セレクション)。他の人に似ぬ強情な心持が、「消ゆる帚木」など詠んだが、消える所か、消えずそのまま、まだやっぱり残っているのであるよと(岩波大系)。人とは違った女の気性が、なおも消えずに(堂々と)立ちのぼっていると思うと(玉上)。
さばれと思せども 「さばれ」 さもあらばあれの約で、どうにでもなれ。
むつかしげにさし籠められて 「むつかしげに」むさくるしい。「さし籠められて」錠をさして閉じこもる。
かしこげに かしこげに(はべり)。おそれ多くて、できませぬ。
よし、あこだに、な捨てそ (空蝉は私を見捨てても致し方がない)せめてお前だけでも。
とぞ 以上は、ある人が語った話だ、というのである。この巻の冒頭にいう「語り伝へけむ」人の話はこうだったという、とことわるのである。

公開日2016年2月14日