源氏物語  紅梅 注釈

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若君 真木柱腹の若君。
世の中の広きうちはわづらはしけれ この広い世間の内は、気を許せないものなのだ。どんな強敵がいるか分からない、の意。
心ありて風の匂はす園の梅にまづ鴬の訪はずやあるべき そのつもりがあって、風が匂いを吹き送る園の梅に、すぐにも鶯がおとずれなくてよいものでしょうか(新潮)/ 考えがあって風が匂わす園の梅に何より先に鶯がやってこないことがあるでしょうか(玉上)
心やすき所にも 私邸の二条院である。匂宮は、今上の第三皇子で明石の中宮腹。匂宮は女一の宮とともに紫の上の手許に引き取られて、育てられた。
我をば、人げなしと思ひ離れたるとな。ことわりなり。されどやすからずこそ。古めかしき同じ筋にて、東と聞こゆなるは、あひ思ひたまひてむやと、忍びて語らひきこえよ (大君は)私を、うだつの上がらぬ者とすっかりお見限りだそうだな、大君ー若君の姉。大君、中の君、宮の君と三人姉妹がいる。
花の香に誘はれぬべき身なりせば風のたよりを過ぐさましやは 花の香にさそわれてもよい身の上でしたら、願ってもない風の誘いを見過ごすことでしょうか(新潮)/ 花の香に誘われてしまうような私であったら、少しでも何か言ってきたら黙っていようか(玉上)
なかなか異方の姫君は、見えたまひなどして、例の兄弟のさまなれど、童心地に、いと重りかにあらまほしうおはする心ばへを、「かひあるさまにて見たてまつらばや」と思ひありくに かえって、腹違いの姫君たち(大君、中の君)は、(若君に)姿をお見せになったりして、普通の兄弟のような間柄だが、子供心に、宮の御方が、いかにも奥ゆかしく、申し分のない気立ての方なので、立派な婿殿を持たせてあげたいものだ、と思っていて。
本つ香の匂へる君が袖触れば花もえならぬ名をや散らさむ もともと香りの高いあなたのお袖が触れたなら、梅の花(私の娘)も、いかにすばらしい匂いだと世間に評判が立ちましょう(新潮)/ もともと匂いのよいあなたの袖がふれると、花も見事な評判を得るでしょう。
花の香を匂はす宿に訪めゆかば色にめづとや人の咎めむ 花の香りを匂わせる家を尋ねて行きましたら、色(女色)に目がないと人が咎めだてするのではないでしょうか(新潮)/ 花の香をびおわす宿にこちらから出かけて行ったら、浮気なことだと世間の人は咎めるであろう(玉上)
この花の主人は、など春宮には移ろひたまはざりし 大納言は、中の君を(私でなく)どうして春宮にさし上げる気におなりでなかったのだろう。「花」は紅梅(中の君)、その「主人あるじ」は、大納言と見るべきであろう。「うつろふ」(気を移す)は「花」の縁語(新潮)/ 「此花のあるじ」を中君と解する説に従う。その中君はなぜ春宮に入内しなかったのか、と(匂宮が)と尋ねる(新日本古典文学大系 岩波)/ 「古めかしき同じ筋にて、東と聞こゆなるは、あひ思ひたまひてむやと、忍びて語らひきこえよ」と匂宮は宮の御方(東の君)に関心が向いているので、「この花の主人」は宮の君とした方がよいのではないか。岩波日本古典文学大系は宮の君と註している。角田訳も同じ解釈。
人に見え、世づきたらむありさまは、さらに 夫を迎えて、結婚生活をすることは、決してすまい。
ひき違へて、かう思ひ寄るべうもあらぬ方にしも、なげの言の葉を尽くしたまふ、かひなげなること こともあろうに、よりによってその気になりそうもない宮の御方に、かりそめにもせよ熱心なお手紙を下さるのは、埒のあきそうもないことです。「ひき違へて」は、予想に反して。「なげの言の葉」は、心のこもらない、なげやりな言葉。
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公開日2020年9月2日