今月の言葉抄 2006年8月

オシム監督

オシム監督
オシム監督

日本代表のイビチャ・オシム監督(65)が、J各クラブの心をつかんだ。Jリーグのクラブ担当者会議が24日、東京・文京区のJFAハウスで行なわれた。集合当日の代表メンバーの発表などオシム流のやり方にクラブ側が反発することが予想されたが、指揮官は就任挨拶で各クラブを“洗脳”。クラブ側も心酔し、両者が日本サッカー発展のためにがっちりと手を組むことになった。

これぞ“オシムマジック”だ。約1時間30分の会議の中で、オシム監督がいたのは冒頭の12分だけ。だが、それだけで十分だった。各強化担当者の話などを総合すると、同監督はJ1、J2の31チームの担当者の前でこうあいさつしたという。

「私の経験上、クラブとサッカー協会は対立するものです。だが、日本のサッカーの発展を考えるならば対立するべきではありません。我々は同じ皿の上の飯を食べているのです。利害が一致しないからといって料理につばを引っかければ、その料理を自分も口にしなければならないのです」

母国ボスニアの古い言い回しを使って飛び出した名物の「オシム語録」。これで強化担当者の心をつかんでしまった。

「私に聞きたいことはありますか?」意見を求めたが、手を挙げる者はいない。「こんなすぐに出ていっていいのですか?」と笑わせると、なんと万雷の拍手で送り出された。「あれがオシム語録か」「うまいこと言うなあ」と何人もの強化担当者が口をそろえた。予想されていた対立ムードは、影も形もなく消えていた。

指揮官は本来は糾弾されるはずだった。各クラブで問題になっていたのは、イエメン戦(16日)前の新潟合宿。オシム監督は集合日を14日から13日に早め、さらにお盆による交通機関混雑時にもかかわらず、集合当日にメンバーを発表した。また13日はJリーグの翌日にもかかわらず、ハードな練習を敢行。19日のJリーグでの代表勢の疲労は明らかだった。数チームの強化担当者は「強化担当者会議で言わないとならない」と“意気込み”を見せていた。

だが、代表監督としては異例の出席で“仁義を切った”上に、老練に各クラブを懐柔。日本協会・小野剛技術委員長がアジア杯予選の中東遠征(31日出発)メンバーを30日のJリーグ終了後に発表すると説明しても、反対の声は上がらなかった。代表の大量選出を予想される浦和は、30日の大分戦(大分)後にサウジアラビアに飛ぶという強行日程になるが、中村修三GMは「ジーコ(前監督)との話し合いはいつも間接的だった。こういう関係を我々も望んでいた。こんな雰囲気は初めて」と話した。

どの国でも、代表監督とクラブの間は選手の招集日程などで対立関係になりがち。しかし、指揮官は言葉巧みに共存共栄を訴え、結局、主導権を握ってしまった

『スポーツ報知 2006年8月25日』から


オシム監督の言葉はすごい。現実を正視し、本質をえぐり、あるべき方向を見据え、率直に、また逆説的に、時にユーモアを交えて話す。一気に聞き手を魅了させてしまう。このように喋れる人は、なかなかいない。4年後のワールドカップでは、日本を世界で戦えるチームにしてくれそうな気がする。65歳という年齢だけが心配だが。以下は就任の記者会見から。(管理人)

「・・・奇妙に聞こえるかもしれないが、私は最初に日本代表チームを“日本化”させることを試みる。組織的で具体的なよりよい方法で、日本選手が本来持っている力を最大限に引き出すことが必要だ。」

「・・・近い将来、身長の高い選手を見つけることは難しいと思う。それが決定的な問題ではないが、もし見つけたとしても、その選手が日本人らしいサッカーをするとは限らない。私が考えているのは、日本人の持ち味をいかに生かすことができるか、ということだ。日本は、ほかのチームにないものを持っているわけで、それを生かすことが大事である。具体的には、素晴らしい敏しょう性、いい意味での攻撃性やアグレッシブさ、そして個人の技術。ただし、その個人の技術が、チームのために生かせていないようにも思う。ほかにも考えるべき点がある。例えば走るスピード、展開のスピード。これまでの日本代表は、スピードのあるチームではない。もっとスピードのあるプレーができると思う。まあ、話が長くなってしまうので、今日はこれぐらいにしておこう。」

更新2006年8月26日