全席優先席

電車は混んではいなかったが
座席はほぼ埋まっていた

小柄な老婦人が乗ってきた
座席をさがす風もなく
そのままドア近くの支柱につかまって立っていた
見ると先に小さな車の付いた白い杖を持っている

そばに座っている若い女性は
眠っているのでもなく
じっと目をつむっている
向かいの男性は本をひらいたまま所在なさそうにしている
老婦人が立っているのは視界に入っているはずだ
席を立とうとする人は誰もいない

みんな鈍感!

おねえさん 眼の悪いお年寄りがお隣に立っていますよ

老婦人は
杖の先の車輪を動かしながら
二駅目で下りていった

皆さん
お疲れの方も
いらっしゃるでしょうが
電車に乗ったら目を開けていてください
横浜市営地下鉄は
全席優先席です

二00六年五月記
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