冬のコート

横須賀線の電車の中で

あなたはどうしてコートを持っていないのか
こんなに寒い時期なのに
近くに座っているサラリーマンの若い男達も
みんなコートを着ているのに

両手をキチンと前に組んで
あなたは座っている
着ているものも少し薄手のようだし
胸から見えるシャツもなんだか夏物のようだ

カバンを持っているところを見ると
会社勤めのようですが
なんと頼りなげな風情なのだろう

今年入社したばかりのようですが
会社のなかで生き抜いてゆくには
あまりにも不安げに見えます

無事短大を卒業して
初めていきなり
社会の荒波の中に放り出されたようですね

世間では
誰もあなたの心配をする人なんかいない
世間では
誰もあなたの事を気にかける人はいない
だから
なにも怖がることはないのです
なにも恐れることはないのです

人間は
もともと不平等に生まれついています
世間にすぐ慣れる人もあれば
あなたのように
慣れるのに時間のかかる人もいます
・・・一生かかっている人もいるのです

このような寒い季節ときには
せめて暖かいコートを身に着けてください
手に持っているだけでもいい
世間の厳しい寒さの中で
自分を暖かくしてください

あまりにも頼りなげな風情なので
私はあなたから目が離せないでいる

二00六年十二月記
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