骨折

平成二十二年二月十九日午後五時頃
ポンズが骨折した
狭い坂道を下りていたとき
前から来た車をやり過ごしたのだが
後ろからバイクがきているのに気がつかなかった
おれは道の左側をポンズの綱をしっかり左手にもって歩いていていたが
いきなりポンズは右側に飛び出した
綱を瞬時に引き寄せたが
ポンズがキャンと鳴いて
バイクはそのまま走り去った
しばらく様子を見ながら歩かせていたが
上り坂にかかると止まってこちらを見上げている
よく見ると後ろ左脚がびっこを引いていた
血も出ていた
そのまま抱っこして久松病院まで連れて行った
二枚とったレントゲンを見せてもらったら
脚の骨が四本あるところ三本が骨折していた
傷口には軟膏をぬり
脚はギブスで固定し
炎症を止めに抗生物質の薬をもらって
抱っこして帰ってきた
レントゲンをとるとき麻酔を打っていたので
さすがにおとなしく腕のなかでじっと抱かれていた

家人はおれの責任をなじった
おれを冷たい男だと非難した
おれが骨折したらその日から歩かせてやるといった
おれは笑ってなにも言葉を返さない
娘も疑わしそうに言う
久松病院から家までポンズを抱っこして連れて来れないのではないか
バイクにぶつかってから
そのまま少し歩かせたのは事実だが
病院からの帰りは
ずうっと抱っこして家まで連れて帰ったのだ

確かにおれは
世界の罪を
世界の苦しみを
感ずることは出来ない
その心はまだ発育不全のままだ
・・・共感する心
これはドストエフスキーが人間にもっとも大事なものだとどこかで言っていたものだ
これが年とともに衰えるのなら
そうすれば何のために年をとって生きているのか
それとも世界の罪を感ずる心
世界の苦しみを感ずる心は
若い頃の一時の幻想か

ポンズはギブスをはめて歩いていた頃は
おとなしかった
元気になったこのごろは
やっぱり昔のように
自分勝手に歩きまわり
自分の思うがままに先を行く
散歩に出かけようとすると飛びついてくる
今日病院に連れていったら
先生はあと一ヶ月は様子を見ましょうといっていた

二0一0年四月記
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