様々な思想


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整体指導法とは

整体指導法とは、人間の体の中にある元気を呼び起こすための技術であります。だから当然、技術の面から着手すべきでありますが、整体指導というのは技術以前の問題が非常に多いのであります。そして、むしろ技術以前に重要な面が多いのです。

最近は、整体すれば人間は丈夫になり、元気になるということが一般にも知られてまいりまして、国外にも整体を求める人が多くなりました。しかし、整体すれば丈夫になる、元気になるということだけでは、整体指導の目標が達せられたとはいえないのであって、誰もが元気に生きる力を持っているという自分の体の構造を自覚し、その力を発揮するように心掛ける人を一人でも多くすることがその目的なのでありますから、人にやってもらって丈夫になるということではないのであります。それをいつの間にか、人にやってもらえば元気になる、丈夫になるというだけが広まり、やってもらうことを目的に道場を訪ねる人が多く、外国から来る人達も、初めはみんなそういう目的で訪ねてこられます。

私は昔、この整体法を治療法として使っておりました。よく治るという評判で、操法を受けたいという人が非常に多くなりました。しかしそれはみんな治療術として求めてきた人達でした。私も初めの内は、大変おもしろくて、最初の十年位はそのまま知慮術として行い、それが上手になることを目標に、せっせとやりました。ところが次第に上手になり、相手が早くよくなる程、「いざとなれば、野口先生の所に行けばいい」とズボラになるばかりか、自分で自分の体を保つことを忘れて、私の所に来なければ丈夫になれないと思い込んでしまう。豚だって自分の健康を自分で保っているのに、人間だけは何故かと、大変不思議に思いました。そして、こういうことを長く繰り返していたのでは、人はだんだん生きることに不熱心になり、自分の体を人任せにして、他人の力ばかりに頼って生きることになる。しかも、私の周りにいる何百人か何千人かの人だけしか丈夫にならないということになると、それでは困る。誰もがみんな丈夫にならなくてはならない。それにはどうしたらいいか。私が下手になることだ。私が治療術を使わないことだ。自分が生きている内はみんなから頼られるから早く死ぬより他ないなどと、だんだんそういう考え方になってきて、その挙句、人間はどうすれば丈夫になるのかと考え直しました。それには一人一人が自分の生きている力を自覚する。自覚してそれを発揮するように誘導していくことが本当だと気がつきまして、治療術という面を全部捨てたのであります。体力を発揮できるように体を整えてゆく。そうすると自然に丈夫になるし、病気があってもしぜんに経過してしまうし、お産をする人は痛まずに産める。だからと言って、それれを目的とするわけではなく、ただ人間の自然の構造に沿って、その持っている力を発揮すというだけのことであります。だから、整体が、丈夫になり、元気になるというだけに使われるのは本当ではなくて、誰もが元気になり、丈夫になる力を各々が持っているのだから、それを自覚して発揮しようではないか、その筋道として整体があるというように伝えなければならないと考えたのでありますが、近頃はそのように伝えられるようになり、そのように動き出しております。そうしないと、なかなかみんなが丈夫になるという目的は達せられない。

いま生きている人間だけでも何十億人かいるのです。だから一人一人を指導していたのでは、我々の数が現在の千倍になっても、なお足りないのです。誰かの力を借りなければ丈夫になれないという考え方のまま行えば、世界中の半分が医者になっても、なお足りない。結局はいつになっても、医者の数が足りないとか、薬がないから治らないということは止まない。それよりも、一人一人が自分の裡なる生命の精妙な働きを自覚し発揮すれば、人の力を丈夫になれるのです。これが整体の考え方です。

『整体法の基礎』野口晴哉著 (株)全生社 昭和52年9月初版発行

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公開日2022年8月8日