源氏物語を読む 現代文比較①

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源氏物語は様々な文人や学者によりまた市井の愛好家によって、現代文にされています。
源氏が紫の上と新枕を結ぶ場面です。KTは、このサイトの管理人です。
葵の巻

原文
いとつれづれに眺めがちなれど、何となき御歩きも、もの憂く思しなられて、思しも立たれず。
姫君の、何ごともあらまほしうととのひ果てて、いとめでたうのみ見えたまふを、似げなからぬほどに、はた、見なしたまへれば、けしきばみたることなど、折々聞こえ試みたまへど、見も知りたまはぬけしきなり。
つれづれなるままに、ただこなたにて打ち、へんつきなどしつつ、日を暮らしたまふに、心ばへのらうらうじく愛敬あいぎょうづき、はかなき戯れごとのなかにも、うつくしき筋をし出でたまへば、思し放ちたる年月こそ、たださるかたのらうたさのみはありつれ、しのびがたくなりて、心苦しけれど、いかがありけむ、人のけぢめ見たてまつりわくべき御仲にもあらぬに、男君はとく起きたまひて、女君はさらに起きたまはぬ朝あり。
339字

与謝野晶子 1912年/1938年
つれづれな独居生活であるが源氏は恋人たちの所へ通って行くことも気が進まなかった。
女王がもうりっぱな一人前の貴女きじょに完成されているのを見ると、もう実質的に結婚をしてもよい時期に達しているように思えた。おりおり過去の二人の間でかわしたことのないような戯談じょうだんを言いかけても紫の君にはその意が通じなかった。
つれづれな源氏は西の対にばかりいて、姫君と扁隠へんかくしの遊びなどをして日を暮らした。相手の姫君のすぐれた芸術的な素質と、頭のよさは源氏を多く喜ばせた。ただ肉親のように愛撫あいぶして満足ができた過去とは違って、愛すれば愛するほど加わってくる悩ましさは堪えられないものになって、心苦しい処置を源氏は取った。そうしたことの前もあとも女房たちの目には違って見えることもなかったのであるが、源氏だけは早く起きて、姫君が床を離れない朝があった。
371字

谷崎潤一郎 1939年/1965年
所在がなくて、物思いに沈みがちですけれども、ちょっとしたお忍び歩きも億劫おっくう におなりなされて、思い立ちもなさりません。
姫君は何事をも申し分なく身につけられて、すっかり立派におなりなされましたのを、もはや不似合いともいえぬ年頃と見てお取りになって、それとなく言い寄りなどしてお試しになる折々もあるのですけれども、とんとお悟りにならない御様子です。
退屈しのぎに、ただこちらの対で碁だの偏つきだのをなさりながら日をお暮しになりますのに、生まれつきが発明で、愛嬌があり、何でもない遊戯をなされましても、すぐれた技倆をお示しになるという風ですから、この月日はさようなことをお考えにもならず、ひとえにあどけない者よととのみお感じになっていらっしゃいましたのが、今はこらえにくくおなりになりなされて、心苦しくお思いになりつつも、どのようなことがありましたのやら、幼い時から睦み合うおん間柄であってみれば、余所目にも区別のつけようもありありませんが、男君が早くお起きになりまして、女君がさっぱりお起きにならない朝がありました。
457字

玉上琢弥 1965年
ひどく所在がなくて、物思いに沈みがちだが、さしたることもないお出歩きも億劫にお思いになって、思い立ちもなさらない。ところが、姫君が、何事も申し分なくすっかり整って、たいへん立派にお見えなさるので、不似合いでない年頃と見てお取りになって、言い寄るようなことを、折々申してためしてみなさるが、とんとおわかりにならない様子である。
所在ないままに、ただこちら(の対)で碁を打ち、偏つぎなどして日を過ごしていらっしゃるが、性質が利発で、愛嬌があり、ちょっとした遊びごとの中でも、かわいらしい仕方をお見せになるので、(結婚は早すぎると)心におとめにならなかった年月は、ただああ言ったかわいらしさだけではあったが、(今は)こらえにくくなって、(姫には)気の毒に思うのだが、どういうことだったのか、ー人が(いつからとその)区別をお見わけ申し上うるおん間柄でもないが、-男君は早くお起きにになって、女君は一向にお起きにならない朝があった。
410字

瀬戸内寂聴 1997年
源氏の君は所在なくて、物思いにふけりがちでいらっしゃいます。ちょっとしたお忍び歩きも億劫にお感じになられて、一向に思い立たれなくなりました。
姫君が、何から何まで理想的にすっかり成長なさって、たいそう好もしくすばらしくおなりになられたので、夫婦になっても、もう不似合いでもなくなったと見て取られましたから、それとなく結婚を匂わすようなことなどを、時々言葉に出してためしてごらんになるのですけれど、姫君のほうは、まるでお気づきにならないふうなのでした。
所在ないままに、源氏の君はただ西の対で、姫君と碁を打ったり。偏つき遊びなどをなさって、日を暮らしていらっしゃいます。姫君の御気性がとても利発で愛嬌があり、たわいない遊戯をしていても、すぐれた才能をおのぞかせになるのです。まだ子供だと思って放任しておかれたこれまでの歳月こそ、そういう少女らしい可愛らしさばかりを感じていましたが、もう今はこらえにくくなられて、まだ無邪気で可哀そうだと心苦しくはお思いになりながらも、さて、おふたりの間にどのようなことがありましたのやら。
もともと幼い時から、いつも御一緒に寝まれていて、まわりの者の目にも、いつからそうなったとも、はっきりお見分け出来るようなお仲でもありませんでしたが、男君が早くお起きになりまして、女君が一向にお起きにならない朝がございました。
570字

渋谷榮一 1996年
とても所在なく物思いに耽りがちだが、何でもないお忍び歩きも億劫にお思いになって、ご決断がつかない。
姫君が、何事につけ理想的にすっかり成長なさって、とても素晴らしくばかり見えなさるのを、もう良い年頃だと、やはり、しいて御覧になっているので、それを匂わすようなことなど、時々お試みなさるが、まったくお分りにならない様子である。 所在ないままに、ただこちらで碁を打ったり、偏継ぎしたりして、毎日お暮らしになると、気性が利発で好感がもて、ちょっとした遊びの中にもかわいらしいところをお見せになるので、念頭に置かれなかった年月は、ただそのようなかわいらしさばかりはあったが、抑えることができなくなって、気の毒だけれど、どういうことだったのだろうか、周囲の者がお見分け申せる間柄ではないのだが、男君は早くお起きになって、女君は一向にお起きにならない朝がある。
372字

大塚ひかり 2008年
君はひどく所在なく、ぼんやりしがちなのですが、何ということのないお忍び歩きもおっくうになって、思い立ちもしません。
紫の姫君が何もかも理想的にすっかり大人になって、ただもう美しく見えるのを、「結婚も不似合いな年ごろではなくなった」と見なされるので、ほのめかすようなことを、君は時々言って試してみますが、何も分からぬ様子です。
することもないままに、ただ姫君のもとで碁を打ったり漢字遊びなどしては、一日を過ごしていると、性格が利発で可愛げがあって、ちょっとした遊びの中にも可憐なところを発揮するので、そういう対象として意識していなかった年月は、ただそれなりに可愛く思っていただけでしたが、こらえ切れなくなって、可哀想ではあるものの、何があったのでしょう。人からは、前後の違いが見分けられるようなご関係でもなかったのですが、男君は早く起きられて、女君はいっこうにお起きにならぬ朝があります。
391字

上野榮子 2008年
まったくする事がなく手持ち無沙汰で物思いがちであるけれども、そうかといって一寸した御外出も気が進まず、進んで思い立ちもなさらない。姫君(紫上)が、何事も申し分なく成長なさって、大層立派にお見えになるので、結婚が不似合いでない年頃と見てお取りになって、意味ありげな事などを、時々試みにおっしゃってごらんになるけれど、そんな事には一向に気がおつきにならない様子である。物寂しくてなす事もないままに、源氏の君は、ただ姫君(紫上)のお部屋で碁を打ったり、偏附などをしてお暮しになっているが、姫君は性格が利発で明るく、可愛らしく愛嬌があって、一寸した遊戯の中にでも、立派な技倆や才能をお示しになるので、まだ子供だと、結婚のことなど考えもせずにそのままにしていた数年の間は、どうしても、ただ、あどけない可愛い子供としてばかりで済ませていたのであった。しかし今は、我慢が出来なくおなりになって、まだ無邪気な子供心の紫上には、本当にかわいそうではあるが・・・・。
どういう事があったのだろうか。常々、一つ御帳にお寝みになっているので、余所目には、新枕があったかどうか、そんな区別をお見分け申す事の出来るお二人の仲でもない事なのに、ある日、男君(源氏)早くお起きになって、女君(紫上)は一向にお起きにならない朝があった。
550字

角田光代 2017-2020年
光君は、もの思いにふけることが多くなり、忍び歩きもだんだん億劫になって、出かけようともしない。紫の姫君は何もかも理想的に育ち、女性としてもみごとに一人前に思えるので、そろそろ男女の契りを結んでも問題はないのではないかと思った光君は、結婚を匂わすようなことをあれこれと話してみるが、紫の姫君はさっぱりわからない様子である。
することもなく、光君は西の対で碁を打ったり、文字遊びをしたりして日を過ごしている。利発で愛嬌のある紫の姫君は、なんでもない遊びをしていても筋がよく、かわいらしいことをしてみせる。まだ子どもだと思っていたこれまでの日々は、ただあどけないかわいさだけを感じていたが、今はもうこらえることができなくなった光君は、心苦しくおもいながらも・・・。
いったい何があったのか、いつもいっしょにいる二人なので、はた目にはいつから夫婦という関係になったのかわからないのではあるが、男君が先に起きたのに、女君がいっこうに起きてこない朝がある。
420字

KT 2023年
源氏は、所在なく物思いにふけりがちで、なんとなく女の処へ通うのももの憂く、出かけようとしない。
姫君は、何ごとにも申し分なく成長して、実に立派に見えるので、そろそろ自分の相手にいい頃だろうと源氏は見て、時折それとなく意中をほのめかしてみるが、姫君はまったく何のことか分からないのであった。
つれづれに、姫君の処で碁を打ったり、偏継ぎなどして日を過ごして、姫は賢く愛嬌があり、たわいない遊びにも女らしい仕草を見せて、結婚など思いもよらなかった年月は、子どもらしいかわいさを可愛がっていたが、ついには我慢しきれなくなり、女君には気の毒であったが、どうなったのであろうか、いつから夫婦と見分けられない仲なので、男君は早く起きて、女君はなかなか起きてこない朝があった。
327字

Arthur Waley 1925-1933年
Towards the end of the day he felt very restless and the time hung heavily on his hands, but he was in no mood to resume his secret roving and such an idea did not even occur to him. In Murasaki none of his hopes had been dasappointed; she had indeed grown up into as handsome a girl as you could wish to see, nor was she any longer at an age when it was impossible for him to become her lover. He constantly hinted at this, but she did not seem to understand what he meant.
He still had plenty of time on his hands, and the whole of it was spent in her society. All day long they played together at draughts or word-picking, and even in the course of these trivial pursuits she showed a quickness of mind and beauty of disposition which continually delighted him; but she had been brought up in such rigid seclusion from the world that it never once occurred to her to exploit her charms in any more adult way.
Soon the situation became unendurable, and though he knew that she would be very much upset he determined somehow or another to get his own way.
There came a morning when the gentleman was already up and about, but the young lady was still lying abed. Her attendants had no means of knowing that anything out of the ordinary happened, for it had always been Genji's habit to go in and out of her room just as he chose.

Edward G.Seidensticker 1976年
It was a tedious time. He no longer had any enthusiasm for the careless night wanderings that had once kept him busy. Murasaki was much on his mind. She seemed peerless, the nearest he could imagine to his ideal.Thinking that she was no longer too young for masrriage, he had occasionally mmade amorous overtures; but she had not seemed to understand. They had passed their time in games and Go and hentsugi. She was cleverand she had many delicate ways of pleasing him in the most trivial diversions. He had not seriously thought of her as a wife. Now he could not restrain himself. It would be a shock, of course.
What had happened? Her women, when women had no way of knowing when the line had been crossed. One morning Genji was up early and Murasaki stayed on and on in bed. It was not at all like her to sleep so late.Might she be unwell? As he left for his own rooms, Genji pushed an inkstone inside her bed curtains.

公開日2023年2月19日