阿含経を読む

尊敬に値する

南伝 中部経典89 法荘厳経
漢訳 中阿含経213 法荘厳経
1
かようにわたしは聞いた
ある時、世尊は、サーキャ(釈迦)族のメーダルンバ(弥婁離)という町にとどまり住しておられた。その時、コーサラ(拘薩羅)国の王パセーナディ(波斯匿)は、さる所用があって、ナンガラカ(邑名城)に到った。そこで、コーサラ王パセーナディは、ディーガ・カーラーヤナ(長作)に仰せられた。
「友カーラーヤナよ、華麗なる車を用意してもらいたい。わたしは、あの美しい園の景色を見にゆきたい」
「大王よ、かしこまりました」
とディーガ・カーラーヤナは、コーサラ王パセーナディに応諾し、華麗なる車を用意して、コーサラ王パセーナディに申しあげた。
「大王よ、華麗なる車の用意はできました。いまや、出発すべき時でございます」
そこで、コーサラ王パセーナディは、華麗なる車の一つに乗り、多くの華麗なる車をしたがえて、王者の大威容をもって、ナンガラカに向かい、かの園へと近づいた。まず、車でいけるところまでは車で行き、そこから後は、車を降りて歩いて園に入った。そこで、コーサラ王パセーナディは、その園中をあちこちと逍遥して、一樹の下の、心地よく、愉しく、静かにして、騒音もなく、遠く人里を離れて、瞑想に適したるところを見出した。すると、世尊のことが思い起こされた。
「この樹蔭は、心地よく、愉しく、静かにして、騒音もなく、遠く人里を離れて、瞑想に適している。わたしは、かって、このようなところにおいて、かの応供・正等覚者たる世尊に奉侍したことがあった」
そこで、コーサラ王パセーナディは、ディーガ・カーラーヤナに仰せられた。
「友カーラーヤナよ、この樹蔭は、心地よく、愉しく、静かにして、騒音もなく、遠く人里を離れて、瞑想に適している。わたしは、かって、このようなところにおいて、かの応供・正等覚者たる世尊に奉侍したことがあった。友カーラーヤナよ、いま、かの応供・正等覚者たる世尊は、いずこに住したもうであろうか」
「大王よ、メーダルンパと名づけるサーキャ族の小さな町があります。そこに、かの応供・正等覚者たる世尊は、いま住しておられます」
「友カーラーヤナよ、では、メーダルンパと名づけるサーキャ族の小さな町は、ナンガラカから、どのくらいの距離であるか」
「遠くはございません。大王よ、三由旬でございます。その日のうちに行けます」
「では、友カーラーヤナよ、華麗なる車を用意してもらいたい。わたしは、かの応供・正等覚者たる世尊に見えるために行きたい」
「大王よ、かしこまりました」
とディーガ・カーラーヤナは、コーサラ王パセーナディに応諾し、華麗なる車を用意して、コーサラ王パセーナディに申しあげた。
「大王よ、華麗なる車の用意はできました。いまや、出発の時かと思います」
そこで、コーサラ王パセーナディは、華麗なる車の一つに乗り、多くの華麗なる車をしたがえて、ナンガラカから、メーダルンパと名づけるサーキャ族の小さな町に向かい、その日のうちに、メーダルンパなるサーキャ族の小さな町に到着し、かの園に入った。そして、車でいけるところまでは車で行き、そこから後は、車を降りて歩いて園に入った。
すると、ちょうどその時、多くの比丘たちが、露天を経行(きんひん)していた。そこで、コーサラ王パセーナディは、彼ら比丘たちのところに到り、到ると、彼ら比丘たちに問うていった。
「いま、かの応供・正等覚者たる世尊は、いずこにましますか。わたしは、かの応供・正等覚者たる世尊にお目にかかりたい」
「大王よ、かの精舎の門は閉ざされています。だから静かにそこに行って、おもむろに玄関に入り、謦咳(けいがい)して閂(かんぬき)をたたかれるがよい。そうすれば、世尊は、あなたのために門を開くでありましょう」
そこで、コーサラ王パセーナディは、宝剣と王冠をディーガ・カーラーヤナに手渡した。それで、ディーガ・カーラーヤナは、<大王は、いま、独りで行こうとしておられる。わたしは、いま、ここに止まるべきである>と思った。そこで、コーサラ王パセーナディは静かに、その門を閉ざした精舎のところに赴き、おもむろに玄関に入って、謦咳して閂をたたいた。世尊は門を開きたもうた。そこで、コーサラ王パセーナディは、精舎に入って、世尊の御足を頂礼(ちょうらい)し、世尊の御足に接吻し、手をもって擦(ま)して、名乗っていった。
「世尊よ、わたしは、コーサラ王パセーナディであります。世尊よ、わたしは、コーサラ王パセーナディであります」
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注解
ナンガラカ(Nangaraka) 釈迦族の町である。当時は、釈迦族もまたコーサラ王の統治下にあった。
ディーガ・カーラーヤナ(Digha Kârâyana) パセーナディ配下の将軍であった。
由旬(yojana) 距離の単位であって、一由旬はほぼ七マイルにあたるという。
更新2007年7月1日